演技解説・写真集
What's August 1st?
空軍アクロチームの名前と言えば、色+単語の組み合わせや国名、または動物の名前を使ったものとだいたい相場が決まっています。そんな中にあって中国空軍の『八一飛行表演隊』はとてもユニークなチーム名であると言えるでしょう。八一飛行表演隊の八一(バーイー)とはいったい何の数字なのでしょうか。その答えは八一飛行表演隊の英語名からうかがい知ることができます。
『August 1st Air Demonstration Team』
そう、八一とは81ではなく8月1日を意味しているのです。某将棋漫画とはまったく関係ありません。 1927年。当時中国を単一的に支配する政権はなく、共産党もまだ地方の一軍閥でしかありませんでした。いわゆる「国共内戦」において、はじめて共産党が武装組織による蜂起をおこなったのがこの年の8月1日であり、そしてこの日がそのまま、現在の中国人民解放軍の創立記念日「健軍節」として祝日になっています。八一飛行表演隊の名称は、中国人民解放軍・空軍そのものなのです。
中国空軍機の国籍章にも「八一」の文字が記されています。
八一飛行表演隊が使用する機体は中国国産の新鋭機、成都・J-10(殲10)を6機。その演技で注目したいのは、やはり戦闘機の高いパワーを活かした機動です。アクロバットチームは基本的に練習機を用いる国が多い中、八一飛行表演隊は少ない戦闘機派。それも世界で唯一21世紀に実用化された戦闘機を運用しています。
現代戦闘機は機動性よりも搭載するミッションシステムの時代ですが、それでも機動性は重要です。
現代戦闘機の機動性は搭載する飛行制御ソフトウェアによって左右されます。八一飛行表演隊の機動を見るに、中国の戦闘機飛行制御技術は侮れないレベルにあると断言して良いでしょう。J-10は中国がこれまでコピーしてきた、MiG-21の焼き直しとはまったく別次元の機動性を有しています。
編隊飛行の密集度もまずまずであり、世界第三位の中国空軍を代表する顔として相応しい技量と演技構成を有しています。さすがに歴史あるサンダーバーズやブルーインパルスなどにはまだまだ及びませんが、そのポテンシャルは計りしれません。これはブルーインパルスファンもうかうかしていられませんよ。
八一飛行表演隊の歴史は、1961年にインドネシアのスカルノ大統領が中国を訪問した際に臨時編成された、8機の要人輸送機護衛チームがその発端となりました。翌1962年に中国共産党中央軍事委員会の命によって、要人輸送機の護衛とアクロバットという、儀式的な活動を行う専門の飛行隊の設立が決定されます。この飛行隊は護衛アクロバット飛行隊を意味する『護航表演大隊』と呼称しました。また『空中儀仗隊』とも呼ばれました。
護航表演大隊最初の使用機はJ-5戦闘機。中国産のMiG-17”フレスコ”です。使用機は以下のように変遷しています。また1987年に現在の名称である『八一飛行表演隊』に改名されました。
1962年 〜 1974年 J-5(殲5 MiG-17)
1974年 〜 1980年 J-6(殲6 MiG-19)
1980年 〜 1994年 JJ-5(殲教5 MiG-17複座)
1995年 〜 2009年 J-7(殲7 MiG-21)
2009年 〜 J-10(殲10)
私がはじめて八一飛行表演隊を見たのは2012年珠海でしたから、ちょうどチーム創立50周年にあたる記念すべき年でした。創立時期は航空自衛隊のブルーインパルスをはじめに、その他の主要国アクロチームと殆ど同じであり、長い歴史と伝統を持つ由緒正しき中国空軍のチームなのですが、飛行展示の件数がとても少ないのが玉に瑕です。公式フライトはまだ300回程度に過ぎません。とはいえ、中国だけではなくパリやファンボロー、モスクワ、シンガポールといった世界の名だたるエアショーに参加した経験を有します。
空軍アクロチームにとって「国産機」であることは非常に重要な用件の一つです。念願の国産戦闘機J-10に機種更新した八一飛行表演隊は、急成長を続ける中国空軍の顔に相応しい実力を備えてゆくに違いありません。今後の発展がとても楽しみなチームのうちの一つです。
使用機材 殲10中国は伝統的にソビエトのMiG戦闘機をライセンス生産することによって、その技術力を高めてきました。70〜90年代に入ると中国は独自の戦闘機開発の道を歩み始めます。そして誕生したのが殲8(J-8)や、殲轟7(JH-7)、殲8II (J-8II)といった戦闘機です。これらの機体は正直言って登場時点で既に時代遅れの代物でした。
2005年に実戦配備された殲10は、これまでの機体とは違い、中国がはじめて世界水準に挑み、そして到達した戦闘機となりました。高い運動性を有していることは八一飛行表演隊などのフライトによって実証されています。
エンジンはSu-27が搭載するAL-31Fを単発装備しています。よく「J-10はF-16相当の能力」と表現されます。F-15と同等の能力を持つSu-27。そのエンジンを単発する装備するのがJ-10ですから、F-15のエンジンを単発装備するF-16相当であるという考え方はおおむね正しい解釈と言えるでしょう。
ただし、現代戦闘機にとってもっとも大切なことは搭載するミッションシステムにあります。J-10のシステムは明らかにされていませんが、まだまだこの点においては10年、20年の開きがあるかもしれません。J-10の戦闘機としての機動性の面では合格点。次ぎに中国が目指すは、新型のF-16に匹敵・上回るミッションシステムを開発することにあります。
いつまでも中国が遅れた国と思ってはいけません。
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