演技解説・写真集
What's Frecce Tricolori?
フラテーリ〜♪ イーターリャ♪ イーターリャ♪ セーデスタ〜♪(イタリア国歌)
さて、このページを見ている皆さん。イタリア軍と言えば何を思い出しますか?
「砂漠でパスタをゆで兵站に負担を掛けた」
「ぶっつけ本番の空中給油に失敗し本国に戻った」
「11人以下の集団なら強い」(2010年ワールドカップでは予選敗退しましたが)
「次はイタリア抜きでやろうぜ!」
「来た、見た、逃げた、」
ふむふむ。なるほど。その真偽はともかくとして、十中八九上記のようなネガティブなジョークを思い浮かべると思います。その弱兵のイメージがつきまとうイタリア軍において、紛れなく「世界一」を誇ることのできる部隊が空軍に存在します。その部隊こそが・・・
アエロナウティカ・ミリターレ 313゜グルッポ
アッデストラメント アクロバティコ。
通称「フレッチェ・トリコローリ」アエロバティックチームです。
フレッチェ・トリコローリとは、すなわち「三色旗の矢」を意味します。三ツ矢サイダー、サンフレッチェ広島と同じです(違)。そのフレッチェトリコローリは、何が世界一なのでしょうか。それは「数」です。チームは9機の編隊と1機のソロで構成され、実に10機という多数の飛行機で編隊を組みます。私の座右の銘「アエロバティックは数だよ兄貴!」を体現した世界一のチーム、それこそがフレッチェトリコローリ最大の魅力と言えます。
使用機はアレニア・アエルマッキ社製のジェット練習機MB-339PAN。古めかしい直線翼を持った本機は、アドバンスドトレーナーの部類としては決して性能が良いとは言えません。ロールレートなんてはっきり言って全然良くないから標準でスローロールになってるし、パワーだってそれほど高いとは言えません。しかし、その数の暴力による演技はまさに圧倒的! ただ編隊を組んでパスするだけで絵になるその勇姿は世界中のファンを虜にします。トリコローリだけに。はははは...。
そして驚異的なのがなんと言っても10番機のソリスタ!(ソロ機)、元々単独で活動する「ソロ」とはイタリア語を源流としています(ラテン語かもしれない)。フレッチェ・トリコローリを知らない人は低性能なMB-339PANでのソロなんて大したこと無いんじゃ...と、思うことでしょう。それはとんでもない誤解です。フレッチェのソリスタは飛行性能のハンディキャップなんて全く感じられぬ、世界最多編成を誇るチームのソロとして恥じぬとてつもない機動を魅せます。
人気動画サイト「ニコニコ動画」風にフレッチェトリコローリを一言で表すなら「ここに建てた病院が逃げた」(主にソリスタのせいで)という言葉が最も適していると言えます。編隊演技も、ソロ演技も世界最高水準を誇るチーム、それこそがフレッチェトリコローリなのです。
基本、イタリア語と英語による実況が入り、BGMは最後の国旗を描く演技を除き有りません。この実況が面白いんです。というか、日本人がローマ字読みで英語しゃべってるみたい。こんな聞き取りやすい英語は初めてです(笑)
私はフレッチェトリコローリという存在を知ってから、長いあいだ片思いしていました。いつかフレッチェを見てみたい。絶対に見てやる。と、度々欧州の地に足を運びましたが、どうもフレッチェとは縁が薄く、すれ違いを繰り返してきました。そして5年目となる2010年、4度目の訪欧にてようやく念願が叶いフレッチェを見ることができました。その実力が噂通りであったことに感動しました。
イギリスのレッドアローズ、フランスのパトルイユ・ド・フランス、そしてイタリアのフレッチェトリコローリ、このヨーロッパの三チームはもう世界レベルをブチ抜けてます。いえ、世界レベルなんて言葉すら使う気すら失せます。「銀河系レベル」と言っても過言では無いでしょう。何もかもが圧倒的です。
編隊アクロは飛行機の性能じゃない!
機数、演技構成、練度が重要である!
フレッチェの存在がそれを証明している!
そのフレッチェトリコローリの発足は1961年。カナデア セイバーを使用するアクロチームとして発足しました。セイバーは1963年までの短い期間しか使用されず、64年からは自国産のフィアット G.91 PANに機種更新されました。やはりアクロチームは自国製の航空機を使ってこそですからね。現在のMB-339PANへの更新は1981年、我らがブルーインパルスがちょうどT-2に機種を更新した年です。
MB-339PAN時代のフレッチェ・トリコローリにおける最大のアクシデントは1988年、当時の西ドイツはラムシュタイン基地における空中衝突でしょう。ループの頂点で編隊を二個とソリスタに分割し水平リカバリー後に三重交差する演技において、ソリスタとリーダー機が衝突。またそれに巻き込まれたウィングマンとあわせて3機が墜落。ソリスタは炎上しながら観客エリアつっこみ、死者70名、負傷者1500名というエアショーにおける当時史上最大の惨事となりました。(2002年、残念なことにこの記録を上回るエアショー事故が発生してしまいました。)しかし、フレッチェ・トリコローリは非常に短い期間で復活を遂げ、再び世界の頂点に君臨しました。
フレッチェ・トリコローリ50周年記念塗装機。50機アクロをやるわけではない。
ちょうど半世紀の節目にフレッチェトリコローリを見ることが出来て本当に良かった。
アエルマッキMB-339はイタリア産のジェット練習・軽攻撃機で、
フレッチェ・トリコローリではタービュランスを発生させるウイングチップタンクを排除したMB-339PANを使用しています。なお、PANはイタリア語でPattuglia
Acrobatica Nazionale.アエロバティックチームの略。
写真はタンク付のMB-339CD。 コックピットがグラス化されるなどの近代改修を受けた型です。
エンジンはロールスロイス バイパー 17.8kNの単発で、離陸重量における推力重量比は0.4を切っており、アクロをするには決して十分なパワーとは言えません。なお我らがブルーインパルスの川崎T-4は推力16.4kNのTF-30を双発で搭載し推力重量比0.6です(T-4がいかに化け物じみてるかが分かります)
また、既に記していますがロールレートも非常に悪く、最大性能を発揮してもスローロール状態(大げさですが)であり、MB339はまったくアクロバットに向いていません。
にもかかわらず、フレッチェ・トリコローリの演技は世界トップレベルと評されているのですから、優れた演技構成と技量の高さをうかがい知ることができます。
MB-339PAN自体すでに旧式化した機体であり、遠くない将来退役することでしょう。その後継機となるのはほぼ間違いなくアレニア・アエルマッキM-346マスターです。より高性能な新型機に更新したフレッチェトリコローリがどのような変化を遂げるのか、興味は尽きません。
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