演技解説・写真集
What's RED ARROWS?
世界最優秀アエロバティックチームはどのチームか? と、もし全世界の航空ファンに一人1票を投じてもらったとしたならば、英国ロイヤルエアフォースの誇るレッドアローズの名は、まず間違いなくトップ3の内に刻まれる事でしょう。
9機のホークT1Aを使用するレッドアローズは、レベルの高いヨーロピアンスタイルのチームの中でも実力派として知られています。
実際に見て感じたのは、その噂は伊達では無かったという事です。練習機ながら9機のパワーは凄まじく、迫力、そして演技の緻密さ、どちらも兼ね備えた素晴らしいチームでした。
レッドアローズと並び称される欧州御三家のパトルイユドフランスは流れるような演技で観衆を魅了し、フレッチェトリコローリが世界最大の10機編隊のダイナミズムで魅せる(フレッチェは見たこと無いけど)というならば、レッドアローズの演技は「メチャクチャに引っ掻き回す」という表現がとてもよく似合います。
レッドアローズは観客に息をつく暇さえ与えなません。100%楽しみたいならまばたきも禁止です。クシャミを一発しようものならば、その間に演技が二つ終わっています。ともかく、レッドアローズは視界から消えないのです。1つの編隊の演技が終わったと思ったら、もう次の編隊が目の前に居るのです。
今まで、世界中のいくつかのチームを見てきましたが、実力に関してはレッドアローズがトップであると断言しても問題無いのではないかと思っています。機体性能といい、演技構成といいほとんど完璧の域にあります。
演技もさることながら、レッドアローズの特徴のひとつに、リーダー機の奇声(合図)があります。
「スモーク オン!」
「ロール ナーウ!」
「あーめまー!!」(意味不明)
ともかく叫びます。気合入ってます。そしてわざと無線を会場に流してます。
面白すぎて子供まで叫びだす始末。
レッドアローズの発足は1963年。ウェールズのバレー空軍基地において、訓練教官によるアエロバティックチーム、イエロージャックス
(Yellowjacks)として、その歴史をスタートさせました。初代の使用機はフォーランド
ナット ジェット練習機です。
ナットは印パ戦争においてインド側の軽戦闘機として使用され、パキスタンのF-86Fセイバーを一方的に撃墜する戦果をもあげました。ナットは史上最小のジェット戦闘機で、全長:8.74m 全幅:6.73m 全高:2.46mと、He162ザラマンダーよりも小さいのです。イギリスでは専ら練習機として使用されていました。
(イエロージャックスのナット)
しかし、現在においても黄色を使用しているアエロバティックチームは皆無で有る事からも分かるように、黄色というシンボルカラーはあまり空に映えませんでした。結成の翌年の1964年には、シンボルカラーを赤に変更し、名称も現在のレッドアローズ(Red
Arrows)と改められました。
(レッドアローズのナット)
このRed Arrowsという名前は、当時同時に存在していた英国空軍のレッドペリカンズ(Red
Pelicans)とブラックアローズ(Black Arrows)から、1ワードずつを譲り受けたのものです。
左がジェットプロヴォスト、右がブラックアローズ塗装のハンターです。
どちらのチームも解散し、現在はレッドアローズが英空軍唯一のフォーメーションディスプレイチームとして存続しています。(ソロディスプレイチームは沢山ある)ナットは1978年のシーズン終了まで、長らくの間使用されましたが、その退役に伴い1979年に現在のホークT1に機種更新されています。
レッドアローズは展示回数の多さに於いては紛れも無く世界一で、40年間の歴史の中で50カ国で延べ4000回以上の展示を実施しています。すなわち年に100回以上の展示を行っている事になります。
私が渡英した2006年も7月22日(土)にファンボローエアショーで展示を終えたレッドアローズはベルギーに赴き、翌23日ご当地のSanicole
Airshowで展示を行い、その日のうちに英国に戻り同日23日再びファンボローエアショーで展示を行うと言う笑えない鬼のようなスケジュールを実行しました。レッドアローズにおいてダブルヘッダーはあって当たり前の予定に過ぎません。もちろん20日も21日も22日もファンボローエアショーでレッドアローズは展示を行っていましたし、シーズン中はほとんど毎日レッドアローズは欧州各地どこかしらで飛行を行っているのです。
ちなみに夫人が「日曜未亡人」になるなどと揶揄されるブルーインパルスは年間20回程度です。
2006年5月14日、ブルーインパルスは奥松島まつりで展示を行うため同日行われた静浜基地航空祭での飛行は予定されませんでした。もしレッドアローズなら5月13日土曜日に浜松入りしリモートで静浜上空で展示(プラクティス)、14日に静浜で本番展示、浜松に引き返し給油を行いターンアラウンドして奥松島で航過飛行しその足で帰還。といったスケジュールが組まれていた事でしょう。別にブルーインパルスにそうしろと言うのではなく、レッドアローズならこうしていた。という話ですが。
レッドアローズの展示が最も多かった年は1995年で、136回もの展示が行われました。
レッドアローズに配属されるパイロットの任期は3年で、1年に3人ずつ配属され、3人は元の戦闘機隊に復帰します。つまり、恐ろしい事に9機の機体に対してパイロットは9人しか居ないのです。パイロットに一人欠員が出たら8機で飛行するし、リーダーが突然病に倒れたとしたら、飛行は行われません。それでいて年100回の任務をこなすのだから恐ろしいとしか言いようがありません…。
上写真は予備機の+2が加算された11機というフレッチェトリコローリの10を超える珍しい編隊でやって来たレッドアローズです。9人しかいないなら予備機の運ちゃんは誰なんだ。
使用機材 Hawk T1A
ホークはナットの後継として当時のホーカーシドレー社で設計・製造されました。この手の練習機はほとんど形状が変わりませんね。翼下2箇所、合計4箇所に兵装を搭載する事により軽攻撃機としての能力を持ち、レッドアローズで使用されている改造型T1AではAIM-9Lサイドワインダーの装備も可能です。
アエロバティック機としての性能は旋回性能もロールレートも申し分なく、推力重量比も十分と言えるでしょう。レッドアローズの展示を見ていても、ホークがアエロバティック機としては理想的であると感じても、性能不足を感じさせる点は全くありませんでした。数字上もほとんどT-4と同等、推力重量比でやや劣る程度でしょう。
高い運動性能と整備性軽攻撃機としての能力を買われ、ブルネイ、フィンランド、インドネシア、ケニア、クウェート、マレーシア、オマーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、米海軍(T-45ゴスホーク艦載練習機)と、世界各国で使用されています。
現在でもBAEシステムズにより搭載武装の強化などが行われた最新型の売込みが行われています。
(PHOTO:taka シンガポールエアショーにて。)
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