第84回:飛行機を撮ろう!戦闘機写真の撮り方 1

基礎編

入門者を対象に、飛行機を撮ろうと銘打って始めたこのコラムも4回目になりました。
前回までで必要な物を全てそろえました。もうお金の話は出てきません。思う存分飛行機写真の撮影を楽しみましょう!
今回からは技術的な話がちらほらと出てきます。ともかく、難しい話はイヤ!ただ写真だけを撮りたい! と言う方はとりあえずスポーツモードにしましょう。これだけで戦闘機を撮影するのに必要な設定がほぼ揃い、バカチョンで撮影できます。
「バカでもチョンと押せば撮れる」なんて言い方は悪いですが、最近のカメラは頭がいいので、ほぼ最適な設定を決めてもらえます。
でも、せっかく高いお金を出してカメラを揃えたのですから、カメラ任せではなく、自分の「作品」に「意図・意思」を反映してみたいと思いませんか?

飛行機撮りと一言で言っても離着陸する旅客機と、軍用機ではまったく異質の物です。私はあまり旅客機撮りはしないので、ここでは軍用機、とくに機動中の戦闘機の撮影に絞って進めたいと思います。
分からない用語が有った場合はググるか、マニュアルに目を通してください。必ず記載されているはずです。

シャッター速度、絞り、感度のトリレンマ

撮影において最も重要なパラメータの一つが「露出」です。すなわちカメラ内部のイメージセンサーを、どれだけ光に晒すかを決めなくては成りません。
シャッター速度は「秒」、絞りは「F値」、感度は「ISO」という単位が用いられます。


・シャッター速度
戦闘機の撮影において最優先すべきはシャッター速度です。
最速で1000km/hにも達し、どんなに遅くても280km/h以下になることは無く、しかも三次元に機動を行うその戦闘機は、どんなに大きな機種でもせいぜい20mちょっと。レシプロの小さい機体なら10m程度の大きさで、さらには安全のために100mからの距離が開いています。その戦闘機を超望遠レンズの小さな画角で追いかけて、フレームに収めなくてはならないのですから、「手ぶれ」の問題は常に着いてまわります。
それを防ぐため、露光時間をできるだけ短縮し、「いかに高速でシャッターを切り、一瞬を切り取るか」。これに全てが掛かっています。
具体的には最低でも1/(焦点距離)程度のシャッター速度は確保しておくべきです。
私の環境ならば400mmを使用し、APS-Cサイズのイメージセンサーで1.6倍になりますから、実質640mm。なので、最低でも1/640。1/640でも結構ブレてしまうので、できれば1/1000は確保しておきたいところです。
よって基本はTv(シャッター優先)モードにして撮影します。Tvモードでは手動で設定したシャッター速度に対し、最適な絞りを自動的に決めてくれます。


・絞り
次に絞りについてですが、できるだけ絞った方が有利です。というのも被写界深度、すなわちピントを合っていると見なせる奥行きの範囲は、絞れば絞るほど広がります。
しかし、シャッター速度を高速にし、さらにF値を絞り込むと、当然の如く暗めの写真になってしまいます。
絞りを開放するか、シャッター速度を遅くするか、どちらかで妥協しなくてはなりません。
絞り込みたい場合はAv(絞り優先)モードで撮影するか、Tvモードの場合はシャッター速度を下げてやる必要が有ります。

なお、極端に絞りすぎると今度は「ローパスフィルターのゴミ」が問題となります。レンズ交換が可能という一眼レフの特性上、レンズ交換時にどうしても小さな埃が内部に入り込み、センサーのフィルターに付着してしまいます。これが困った事に、絞れば絞るほどゴミが目立ってしまうのです。イメージセンサーはこまめに清掃しましょう。メーカーのサービスセンターなどに持ち込めば、無料でやってくれるはずです(少なくともキヤノンでは)。

また、ごく手前のものと遠くのもの、どちらにもピントを合わせたい場合は大きく絞り込むと、長大な被写界深度を得る事ができます。

どちらも絞り値優先モード、F22で撮影(広角レンズ欲しいなあ)。


・感度
基本はシャッター速度と絞りで露出を調整しますが、最終手段として感度、ISOを上下させる事で露出を適性にする方法があります。
カメラの機種にもよりますが、ISO100,200,400,800…と、1段階で二倍ずつ変化するものが多いと思います。感度を二倍にすると、露出が二倍になるため、シャッター速度を二倍早い速度で切るか、F値を√2倍絞り込む事が出来ます(シャッター速度の2倍と絞り値の√2倍は等価なので、覚えておくと便利です)。
ですが...。
「よっしゃ!じゃあ最高設定のISO6400で撮るわ!!シャッター速度1/8000うめえwwww」
というのは、やめてください><
感度は画質と引き換えです。 感度を上げれば上げるほどノイズが混じり、粒状感が増してしまいます。
晴天時は十分な日光を得られるので、ISO100 - 200で十分ですが、曇天時はISO400 - 800まで上げないと高速シャッターが切れないかもしれません。このくらいが限界ではないでしょうか。カメラにもよりますが、ISO1600以上はどうしても粒状感が目立ってしまいます。

夕暮れ時にISO1600で撮影。極端な高感度は日が落ちてきた際の切り札。


・じゃあどうすれば?
ブレないようにシャッターは高速で切りたい。
AF精度向上のため絞りたい。
でも感度は上げたくない...。

適正露出にするためには、どれかを妥協しなくてはなりません。正解の無い問題なので、「最適な状態」はカメラマンの数だけ存在し、そのバランスをどうするかは撮る人のセンスに左右されます。
スポーツモードでは、この痛し痒しの板ばさみの面白さが味わえません

その他の基本的な諸設定

・フォーカス設定 (コンティニュアスAFが基本)
フォーカス設定は、いわゆる「ピント」を決める方法を設定します。大まかに分けてMF/AFがあり、基本的にAF(オートフォーカス)を使用します。
AFは更にワンショットコンティニュアスAFという二種類のモードがありますが、ワンショットはシャッターを半押しした際にフォーカスをあわせて固定します。コンティニュアスAFはカメラに接近、もしくは離れていく物体の動体予測を行い、シャッターが切れた瞬間に調度フォーカスが合致するよう、一歩手前(一歩先)にフォーカスをあわせ続けます。
被写体となる戦闘機は高速で移動していますから、必ずコンティニュアスAFにセットしましょう。キヤノンのカメラではAIサーボという独自の名前が付けられています。

特に写真のような高速パスや、奥から手前に向ってやってくる場合は、コンティニュアスAFにしないと肝心のシャッターチャンスにはピントの外れた状態になってしまいます。
キヤノンのカメラを使っている人で、「ピピッ」と電子音を発してフォーカスを合わせている人を結構見かけます。ワンショットAFを使っていると出る音なのですが、それではボケボケの写真になってしまうだろうに...。
このコンティニュアスAFはレンズとカメラの性能にかなり依存します。安いレンズだと突然フォーカスが迷ってしまう事があります。私の使用しているEF100-400でもAFが追いつけない事が少なからずあります。
また、必ずドライブモード(連写設定)にしましょう。連写しない場合でも、一度シャッターを切った後もコンティニュアスAFが持続するため、「次ぎ」のシャッターを切りやすくなります。

MF、すなわちマニュアルフォーカスは玄人専用なので、ふつうは使いません。忘れてOKです。


・ホワイトバランス (晴れが基本)
ホワイトバランス...難しいんですよね。特に室内。
ですが、屋外の飛行中の戦闘機を撮影する場合は「太陽光」にしておけば、まず大丈夫です。


・測光方式 (評価測光か中央重点測光推奨)
シャッター速度優先モードにおいては絞り値を、絞り値優先モードにおいてはシャッター速度を適性な値に設定するための、被写体の測光方式を決めます。
・評価測光(ファインダー全体を見てカメラが決める)
・中央重点測光(主に中央寄りに測光する)
・スポット測光(中心の限られた点で測光する)

の3種類が選択できるカメラが多いですが、無難に評価測光か、でなければ中央重点測光を推奨します。
ただ評価測光の場合は、曇天時に背景が白くなってしまうため、どうしても露出がアンダーになりがちです。そういう場合は中央重点測光にすると、ある程度防ぐ事ができます。
スポット測光は、たまたま日陰の部分で測光してしまった場合、全体的に露出オーバーになってしまったりと、狂う場合が多いので、使いどころが非常に難しく使用しないほうが良いでしょう。


・露出補正 (基本はいじらない)
シャッター速度優先モード、絞り値優先モードにおいて、カメラが測光した適正露出に対し手動で補正を加えます。1.0プラスマイナスする事によってシャッター速度が2倍、F値は√2倍変化します。よく分からない内はあまりいじらない方が良いでしょう。殆どのカメラは1/3ずつ調整する事ができます。
先述のとおり曇天時は雲の白い部分を明るいと測光してしまうため、露出がアンダーになりがちです。そういう場合は、気持ちプラス設定にすると最適の露出になります。


・手ぶれ補正 (ONが基本)
IS(手ブレ補正)が有る場合はONにしておきましょう。抜群に効きます。
ただ、カメラを真上に向けた場合など、異常な姿勢で撮影を行う場合、シャッターが切れなくなる可能性が有ります。そういった事態が予測される場合は、あらかじめOFFにしておきましょう。

EXIFを読む

一眼レフ、コンデジ、メーカーを問わず、撮影した写真のファイルには「EXIF」という共通の形式でシャッター速度や絞り、感度、焦点距離、撮影した時間などの状況を記録したデータが保存されています。帰宅後、Exif Readerなどのソフトを使用し、撮影時の状況を確認して次回の糧としましょう。また、カメラ購入時に付属した写真管理ツールにもEXIFを閲覧できるソフトが同梱されているはずです。
他人の撮った写真のEXIFを覗くのも勉強になるでしょう。航空雑誌などの投稿写真コンテストは撮影時の状況が記されている場合が多いので、参考にすると良いかもしれません。

(MASDFで載せている写真は、レタッチソフトの仕様上全てEXIF情報が消えてしまっていますので、見ることはできません。)

(更新日:2009年2月12日)


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