第22回:ミサイルの射程は飾り(命中率編)

飛翔しても速度エネルギーが無ければ…。


続いてミサイルの命中率に関してです。

さて、前回では平均800m/sで飛翔し射程50Kmのミサイルを例にとって説明しました。ですが、この秒速800mって何でしょう?

ミサイルは発射する時にロケットを点火して一気に加速し、燃料がきれたらあとは滑空します。命中までずっとロケットが火を吹いているわけではありません。 ですのでロケットが停止する寸前で最高速度が出ていることになり、あとは徐々に速度が下がっていくはずです。
例えば射程数キロのAIM-9サイドワインダーなんてほんの数秒間しか燃焼しません。AIM-120 AMRAAMのような射程の長いミサイルでも10秒がいいところです。

ミサイルも飛行機も操縦翼の揚力で姿勢制御しているため、速度が低下すると十分な旋回や上昇ができなくなり、地球の引力に引っ張られるほか無くなってしまいます。
前回例に挙げた射程50Kmのミサイルが100Kmの距離を飛翔した場合、33Kmの距離を飛翔した時と比較すると、ミサイルの機動性はけた違いに下がっ ているはずです。
当たり前ですがミサイルを撃たれたのに気がついて水平飛行しようとするアホウは存在しないので急旋回などで回避を試みるはずです。ミサイ ルの機動性が下がっていればそれについて行けない可能性も十分ありえます。

逆に、まだロケットが燃焼しつづけている状態だと、急旋回にも対応できるだけの速度があり、またミサイルの機動によって失われた速度も十分に回復することができるので、最高の命中率を期待することができます。

AIM-120には、例えどのような機動を行っても撃墜可能な絶対必中圏というゾーンがあり、敵機撃墜を保証しているのはこの絶対必中圏内のみです(当然100%命中するわけではない)。最大射程を発揮しよう物なら当たれば儲けモンといった程度にまで命中率が下がってしまいます。
AIM-120は、最初の撃墜5回までの命中率100%と、史上サイドワインダーに続く「スペック=戦果」の戦果を上げており、信頼性の高さから「スラマー: 必殺野郎」などと言われていますが、本当にスラマーであるには絶対必中圏まで接近する必要があり、遠距離から発射された場合、けっこうな数が回避されてし まっています。

射程距離なんてものは、高度4万ftから1000ftぐらいの目標に向けて発射しようとでもすれば速度も低下しにくいため、いくらでも射程距離を伸ばすことが可能です。言いかえれば高命中率のまま飛翔させることができます。
それを利用したミサイルにAIM-54フェニックスがあります。フェニックスは空気の薄い高空へと上昇し、あとは坂道を下り落ちるように滑空することにより長射程と高い命中率を実現しています。
が、実戦で命中したためしはありません。

ミサイルの射程どうこうと言うのは全くもって無意味…かもしれません?

(更新日2001年12月26日)


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