ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜荷馬車がゆれる
初めての海外エアショー探訪だった2005年のアメリカ・ネリス空軍基地エアショー。
私がこのエアショーに訪れて最初に見た飛行機はなんとMiG-29Aでした。駐車場から会場内に移動するバスの中で思わず「ミグ!」とか声をあげてしまうほど驚きました。そもそもMiG-29を見ることが出来るなど予想だにもしておりませんでしたから。
MiG-29Aは、言わずと知れたF-14,F-15,F-16,F-18クラスの戦闘機に対抗するため設計、生産された旧ソビエトの戦闘機であり、いまだ多くの国の主力戦闘機として現役活躍中の、決して古い世代の戦闘機ではありません。
実戦経験も豊富で、湾岸戦争、ユーゴスラビア・コソボ戦争で大変活躍しました。もっとも結果は一方的に叩き落されるだけでしたが。
ちなみにMiG-29を落とした戦闘機は
F-15が13機
F-16が2機 (しかもうち1機はオランダのF-16A/MLU)
Su-27が4機(エチオピア・エリトリア紛争 5機説も)
MiG-29Aが1機 (同士討ちをしているのです)
対して、MiG-29が撃墜した戦闘機はどうでしょう。
MiG-29Aが1機
悲しいことに同士討ちの1件がMiG-29唯一の撃墜記録でした(2006年現在)。
(2008年追記:2008年にグルジアのUAVの撃墜を記録しました。)
ああ、悲しいかなMiG-29の活躍はマンガ「紅」の主人公の愛機、ステルス・フルクラムだけなのでしょうか。
余談は置いておきまして、その現役で何度も米空軍とも対峙している国が多数保有するMiG-29が、どうして米空軍基地のネリスに有ったのでしょうか。
以前から米空軍がMiG-29を保有していたことはうすうす話には聞いて知ってはいましたが、その足取りを軽く調べてみました。
結論から言うと、このMiG-29はモルドバで運用されていたものでした。
冷戦終結後の同国では最新鋭のミグが手に余る存在であり、運用、整備することが出来ずに、すでに一部は地上で朽ち果てはじめていました。
ソビエト崩壊後32機を装備していた同国のMiG-29Aは、ルーマニアに1機を無償譲渡され、さらにイエメンに4機を売却し、残る機はイランへと渡る筈でありました。しかし、そこにアメリカが横槍を入れ、待ったを掛けました。イランへMiG-29が渡る事は避けたかったのです。
そこで、アメリカは仮想敵として装備することや研究用であることを前提にモルドバと交渉を開始し、モルドバは1997年6月に21機のMiG-29をわずか8000万ドルで売却することで合意。しかも即金一括支払いが行われ、アメリカはイランへのMiG流出を阻止すると共に、MiG-29Aは分解されC-
17に積み込まれ、米国に空輸されました。
8000万ドルではF-2支援戦闘機1機(1億ドル相当)すら調達不可能で、1機あたり400万ドルという超破格であった理由は飛行可能であった状態の機が僅かに6機足らずであり、残りの15機を稼動状態に戻すには1機当たり100−400万ドル以上の改修が必要であるとされていましたが、この件については当時の国防大臣Valeriu
Pasatが、他の国(イラン?)にはさらに高額で売却できたはずなのに、市場価格から外れた不当に安い価格でアメリカへ販売し、国庫に5000万ドルの損害を与えたとして裁判にかけられ2006年2月に禁固10年の判決が下されました。
なお、この判決に対してアメリカは遺憾を表しています。
こんな事で有罪判決になったら、5000万ドルでは済まない損失を与えたわが国の社会保険庁の幹部は片っ端から禁固刑ですね。
アメリカに渡ったMiG-29Aはネリスに送られ、レッドフラッグ演習等の仮想敵として使用される予定であったものの、飛行隊が結成される以前に全機が廃棄されました。
ネリス空軍基地ではパイロットたちへの脅威に対する教育を目的とした東側兵器博物館、Threat
Training Facility (TTF)と呼ばれる施設が設置されており、ソビエトの各種主力戦車、対空砲、銃火器、戦闘機に至るまで多数を保有しています。運の良いMiG-29の生き残りはここで羽を休め半永久的な保存状態にあります。
(美しい姿で保存される数少ないMiG-29A PHOTO:USAF)
2005年のネリスエアショーではTTFの保有する兵器の一部が一般区域にも展示されていました。
MiG-17北朝鮮(笑)
韓国に亡命したいわく付きの機体です。
RPG-7
37mm 対空砲
SA-8ゲッコーと謎の魔人
スカッドミサイル
私が見た、綺麗な姿のままで余生を送ることが許されなかった不幸なMiG-29が何の用途で使われていたのかは知る由も有りませんでしたが、あの状態からして完全に廃棄されるのはそう遠くは無いでしょう。残念なことです。浜松の空自広報館に寄付して欲しいですね。
なお、件のMiG-29のうちの1機が世界一の航空博物館としても有名なUSAFミュージアムに足さえ運べば我々がいつでも見られる状態に整備され、展示されております。
出自までは確認できませんでしたが、2機のMiG-29UB(副座)がアメリカの民間籍に登録されており、ひょっとするとこの機もモルドバからの生き残りかもしれません。
モルドバに残った6機のMiG-29はそのままドナドナされることもなく、地上で朽ち果て二度と空を飛ぶことはありませんでした。
参考資料(殆どネットで資料あつめ)
ネリス空軍基地 Threat Training Facility
対外情報調査第一部
http://www2.odn.ne.jp/~cae02800/moldova/airwar1992.htm
moldova.azi
http://www.azi.md/news?ID=38094
moldova.or.tv
http://www.moldova.or.tv/
余談ばかりですが、余談ついでに最後の余談。
トップの写真の山をいくつか越えた先にエリア51があります。はい、どうでもいいですね(笑)
(更新日:2006年6月26日)
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