価格が低くても戦闘機は数を揃えられない
航空史以来、最大限の技術と資金を費やし戦闘機に「世界最高」を求めていた時代は1970年代で終了しました。東西冷戦が終結し、大規模な空軍同士の航空
戦はほとんど起こりえなくなった今、現代の戦闘機に最大限要求されるのは費用対効果であり、文句なしに性能面において他を大きく引き離しているF/A-
22は例外として、ほぼすべての戦闘機が該当します。
1972年、アメリカで2機種の戦闘機が初飛行しました。
1つは間違いなく20世紀で最も高い実績を残し、1500機が生産されたF-15。もう1機種はF-15の1/4程度のコストで単純な構造から2500機以上が生産されたF-5。
このF-15とF-5を機体のカタログスペックから単純に比較すると、目視外視程交戦においてF-15は最高クラスのレーダーとAIM-7による攻撃能力
を持ち、対するF-5は貧弱なレーダーと目視外射程ミサイルを搭載することができないため、F-15に攻勢をしかけることができません。
さらに目視内視程においてもF-15は大きなバブルキャノピーによる広大な視界、広い主翼による高機動性、強力なエンジンをもち、あらゆる面においてF-5はF-15に劣っていることは、もはや比較するまでもないでしょう(くらべてしまいましたが)。
ですがF-5はF-15よりも機体単価において1/4と、単純計算でF-15の4倍の数を購入することができます。F-15を250機購入する予算があれば、F-5は1000機です。
たとえ圧倒的に性能が高いF-15でも4倍の数のF-5にまともに正面からあたっては勝ち目は薄いと言えるでしょう。
しかし、たとえコストが1/4でも、4倍の数を配備することはできるかというと決してそうではありません。基本的に一国の空軍というものは飛行隊の定数が
あり、また飛行隊の下にも機数に定数があります。そのため、そう簡単に増えたりすることはありません(減ることはあっても)。また、もし4倍の配備を実現
できたとしても、パイロットが4倍、整備士が4倍、基地の拡張も4倍、直接航空機に関わらない基地の警備員も4倍、売店のオバちゃんも4倍必要となり、果
ては人員育成に必要な機材も4倍と、人件費を筆頭とする維持費が膨れ上がってしまいます。
また、能力の劣る戦闘機で出撃しなければならないという事は民主主義国にとっては士気に関わる問題となるでしょう。さらにたとえ定数、すなわちF-15と同等数配備された場合は確かに予算こそ大きく削減できるでしょうが、空軍の能力は著しく低下してしまいます。
現在ではハード的能力よりもソフト的能力に重視がおかれていることを考えると、このような例は明らかに過大でありますが、少なからず当てはまると言えます。
アメリカを筆頭に低コストの戦闘機(それでも十分に高い)を配備せざるを得ない現状ですが、「高い=大量に配備できない。」という構図は当てはまりますが、必ずしも「安い=大量に配備できる。」という訳ではありません。
(更新日:2004年6月14日)
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