意味ないからやめましょう。
第64回「最強兵器のカタログスペック比較」では、どの兵器が強いか?と真剣に悩む若人たちに捧げます。
兵器を紹介した書籍、また同等の内容なウェブサイト。これらはよくありがちな例なので腐るほど存在しますが、すでに退役した大戦前の兵器などはともかく、
現代兵器の殆どは「推測」という不確定な情報に頼っています。特にミサイルの射程や性能などは最高度の機密であるため、高度に推測された数値や性能はデタ
ラメである可能性も大であるということです。
当然私のMASDFも同様であり、私たち一般人は殆どが書籍などから情報を得ているわけですが、その書籍ですら100%正確であるという保証はありません。
1997年。地中海を航海中のアドミラル・クズネツォフから発艦したSu-33艦載型フランカーはイスラエルの防空識別圏内に進入、イスラエル側は即座に
対領空侵犯措置を実施、F-16をスクランブルさせました。その際、Su-33のパイロットはF-16に追尾されている状況認識が出来ておらず、横に並ば
れて初めて追尾機の存在に気が付いたという事件がありました。
Su-33はおよそ数キロの視程を持つ「チェッキングシックス」の補助を行う後方警戒レーダーを装備しています。警戒レーダーにカタログスペック通りの性能があれば、このような失態は絶対におこるはずがありません。
カタログスペック=100%発揮できる性能ではない。という良い例と言えるでしょう。
この件に関しては
Weapons Free! Su-33 Flanker D
http://weapons-free.masdf.com/air/russia/su33.html
以上も参照のこと。
また、仮に性能が数値的に優秀であってもデリケートで非常に高レベルな整備を必要とする兵器は戦争に於いて足を引っ張るだけであり、必用とされる時に動か
なかった例は古今東西腐るほど存在し、また逆に現場で最も重要視され、高い戦果をあげた殆どの兵器は性能的数値が劣っていても頑丈で壊れにくいものであっ
た事例もあまたに存在します。
上記の相反する二種類の兵器を比較して前者が性能的に勝っていると断言することは言えないように、様々な兵器について数値で比較することは殆ど無意味といえます。
重要な事柄は兵器の性能よりも、必要とされる場面で必用とされる能力を発揮できる事。
です。そのためには人にはメシを食わさなければなりませんし、兵器には燃料と十分な整備を施さなくてはなりません。
これを兵站と言います。
戦争において兵士や兵器の維持(兵站)と並び最も重要視される事は何か?
古い例を挙げますが、織田信長が自軍の10倍の兵力を持つ今川義元を撃退したいわゆる桶狭間の合戦。歴史教科書には必ず掲載され、間違い無く授業を受けるであろうこの戦闘における勝因は奇襲攻撃であったとされています。
では織田信長が勝利後の論功賞与において最大の勲功者として評価した人物は誰か?
一番槍をあげたわけでもなく義元の首級を獲った人物でもありません。簗田政綱という武士でした。
彼の役割は今川軍の場所を逐次監視すること、織田軍の主力は篭城戦に持ち込むという偽情報を流すこと。言い換えれば情報戦の総責任者でした。
彼が適当な働きしかしなければ、義元の本隊の位置は司令官たる信長に知れ渡ることも無く、奇襲・確固撃破は不可能であったでしょう。
この事はそのまま今川軍の場所を逐次監視=索敵による情報共有(データリンク)。偽情報を流す=電子妨害・電子戦対抗手段(ECM)に直結し、現代の航空
戦、いや現代の軍隊組織であっても、最も重要とされる事柄は「情報管理」である事に何ら変わりはありません。情報優位により戦闘を勝利に導くといった手段
は現代に始まった事ではありません。
「持たざる者」は「持つ者」に打ち勝つことは出来ないという法則は、「情報による軍事革命」が叫ばれる現代においてさらに確実の物となりました。
その最大の例が先の湾岸戦争・イラク戦争であったと言えます。
仮にイラク軍が湾岸戦争当時は存在しなかったMiG-31MやSu-37のような戦闘機や、T-80,T-90主力戦車など高性能兵器を十分な数保有した
としても情報優位に立つ多国籍軍には文字通り「一方的虐殺」で終わった結果は覆すことは出来なかったでしょう。極端な話イラク軍がイーグルやエイブラムス
を装備していても同じ事です。
多くの先進国の兵器に最も必用とされることは、この情報戦における高度なデータリンク能力であり、強烈なエンジンでも高い運動性能でもありません(もちろん不要ではありません)。
「情報における軍事革命」などと縁遠い発展途上国同士の戦闘や内戦はまた別の話ですが、しかしそれでも戦闘を左右する最高度に重要なモノが情報であることには変わりません。
やや趣向を変えます。
ある兵器と兵器が戦闘を行い、どちらかが「勝利」をあげてもそれが「戦争」に勝利することに直結するのか?
その良い例は示したのがベトナム戦争。
アメリカは陸海空軍のあらゆる組織レベル、そして兵器において北ベトナム共産軍のそれを上回っておりました。事実、10回戦闘があれば9回は勝利したと言っても過言ではないレベルでほとんど全ての戦闘で勝利を収めました。
勝ちつづけたはずなのに「負けつづけた」というイメージが張り付いてしまったため結果的にアメリカはベトナムから全面撤退しなければならなくなりました。
性能的に優れた兵器を保有していても、それが戦略的に効果的に運用されていなければ、たとえ勝利を収めても「戦争に勝つ」という目的を達成することはできません。
戦争と言う観点から見た場合、重要な事はそれであり、兵器1つ1つの性能など取るに足らない事なのです。
どちらの兵器が強いか拘っている限り、初心者からの脱却はできません。
(更新日:2005年1月30日)
目次へ戻る