機関砲はアタらない?
今回のお話は戦闘機用の空対空機関砲です。
その前に、一つ面白い記事を紹介したいと思います。
三菱重工WEBサイト
コックピットから その15「AIR to AIR GUN」
この「コックピットから」のシリーズはとても面白いので、ぜひ目を通してみることをお勧めします。おっと、その前に今回の飛行機のお話を最後まで読んでからにしてくださいね(笑)
さて、紹介したサイトのコラムを執筆した三菱重工のテストパイロットは以下のような記述によって機関砲の話の最後を結んでいます。
計算機で行う照準は、その計算と表示に4秒ほどかかります。相手が4秒間安定した機動をしてくれた時は正確
ですが、そうでない場合は、最初から照準点は
不正確となります。ですから、4秒に1回何らかの回避機動をすれば、
照準は定まりませんので、 弾の当たる確率はほとんど0パーセントとなります。
(略)
これらをまとめて考えると、ほぼ同性能の戦闘機同士の戦いで、相手をGUNで落とすことは、ほとんど不可能になります。ですから、対空武器としては、GUNはお守り程度の効果があると思えば良いでしょう。
(略)
このように対戦闘機戦闘では、GUNはそれほど有効な装置ではありません。最も有効なのは、ご存知のようにミサイルになります。
(コックピットから その15 「AIR to AIR GUN」 より)
現代の戦闘機はレーダーとジャイロ、コンピューターの計算によって、最適な照準をヘッドアップディスプレイに表示します。とはいえ、空中を機動する戦闘機を相手に機関砲を命中させるのはいかに難しい作業であるかがよく分かりますね。
機関砲照準の計算に必要な各種ベクトルを表わした図。補正された命中予想点(地図の工場みたな記号)が、機銃軸を表わすGun
Crossよりも大きく左下にシフトしています。
機関砲はよくアタる!
以前、三菱重工の元テストパイロットの方と直接対談させていただく機会がありました。その方をA氏としましょう。
A氏とのお話において、ちょうど機銃の話題になりました。A氏は以下のように言いました。
「現代戦闘機の機銃はコンピューターの解析したリードに従って発砲するため、よく当たる。訓練においてはターゲットに30-50%、上手い人は70%以上を命中させる。」
A氏は三菱重工サイトのコラムを書いた方ではありませんが、恐らくはかつての同僚でしょう。それなのにコラムとはまったく逆の発言です。
私は「相手が回避行動を取ってもあたるものなのでしょうか?」と、聞きました。
「私には戦闘経験がありませんから、機動する戦闘機に対して射撃したことはありません。ですが朝鮮戦争におけるF-86Fをみるに、その実績は十分でしょう。」
というものでした。なるほど。確かにその通りです。F-86FセイバーにはライバルのMiG-15にはなかった、測距レーダーとコンピューターリーディングサイトが装備されており、高い命中率を実現しています。そして実際に多くの戦闘機を撃墜しています。これは歴史的な事実です。
F-86Fだけではありません。以前飛行機のお話で紹介した
最高の超音速戦闘機エースパイロットギオラ・イプシュタイン(上)
近代戦闘機における最高のエース、ギオラ・イプシュタインは17機撃墜のうち実に12機を機関砲によって葬りました。
12機撃墜のエース、バハラブ准将もこのように述べています。
「機関砲はミサイルとは違う。 機関砲は条件が整っていれば、弾は必ず命中する。」
そう。A氏の指摘通り、コンピューターリーディングサイトによる機銃射撃は意外にも当たっているのです。
では、なぜ三菱重工のコラムを書いたテストパイロットの方は命中率は殆ど0%と述べたのでしょうか。
嘘を書いているとは思えません。 機銃をあてると言うことが困難であるという点については、全ての戦闘機パイロットにとって共通の見解である点は疑いようがありませんが、どうしてこのように、人によって真逆の証言が生まれてしまったのでしょうか。
機関砲は動いていない相手にはアタる!
三菱重工のコラムでは機銃がよくアタる条件についても書かれています。再度引用してみましょう。
計算機で行う照準は、その計算と表示に4秒ほどかかります。相手が4秒間安定した機動をしてくれた時は正確
ですが、そうでない場合は、最初から照準点は
不正確となります。
(略)
相手が動かないものとなると話は違ってきて、GUNは極めて有効です。相手がトラックならば、100発撃てば50発は当たるでしょう
(コックピットから その15 「AIR to AIR GUN」 より)
以上のように相手が安定した機動、または動かなければ機銃というのは極めてよく当たるようです。100発中50発という数字はA氏の訓練における機銃ターゲットへの命中率と合致します。
空中戦における1回の射撃時間はおよそ0.5秒程度と言われています。M61A1 20mm機関砲ならば、0.5秒で50発程度発射可能ですから、仮に三菱重工のコラムの記述通り半数が命中するならば、25発が敵機に的中する計算となります。20mm機関砲の25発的中は致命傷を与えるに十分な数です。
では、動かなければなどということが有り得るのでしょうか?あなたは戦闘機パイロットです。後ろから自分を狙ってきている機を確認したとします。どうしますか?ボケっと真っ直ぐ飛んでいますか? 当然回避のため逃げるでしょう。私だってそうしますし、パイロットだって皆回避機動「ジンキング」をおこなうでしょう。安定した機動をしなければ、相手のコンピューターリーディングサイトは役に立ちません。
動かなければ。なんていう都合のよいことは無いように思えます。ところが、あるのです。
「チェッキングシックス!」
私はこの飛行機のお話で一つのことをクドクドクドクドなんども繰り返し書いてきました。それは『先手必勝』と、『古今東西撃墜された側の5人のうち4人は、自分を撃った機を見ていない』ということです。
聡明な読者のみなさまには、すでにお分かりでしょう。機銃は回避機動されると当たりません。ですが、回避機動は自分が狙われていることを知覚してはじめて実行できます。 撃墜された側の5人中4人は回避機動を行っていないのです。つまり、安定した機動中に正確な射撃によって撃墜されてしまったのです。
ギオラ・イプシュタインの飛行機のお話にも書きましたが、彼の撃墜の殆どは奇襲によって達成されています。機銃による撃墜のコツは、射撃の腕よりも相手を先に発見して背後に潜り込むことにあります。
ぴったり背後についてしまえば、角速度ゼロ、すなわち動かない標的に対して射撃をするのと、ほとんど変わらない状態となります。
「前2を後ろを9!」と、後方監視の重要性を語る坂井
三郎 氏 1分59秒〜
運悪く気付かない内に背後に付かれてしまったら大変です。読者の皆様が戦場へ出る際は、そうならないためにも、僚機と連携して「チェッキングシックス」を怠らないようにしましょう。背後につかれても、坂井三郎とギオラ・イプシュタインは、十数機の敵にフルボッコにされながら機銃を避けまくって逃げ帰ってきた実績をもっています。もちろんこの二人は特別凄いプロ中のプロ中のプロ中のプロですが、敵機を知覚していれば生きてカエルチャンスはあります。ともかくネバーギブアップです。
さて、今回の結論としては、三菱重工サイトの「コンピューターリーディングサイトでも機銃は当たらない」という説は、回避機動を行う敵に対しての話。A氏やバハラブ准将の「コンピューターリーディングサイトによって機銃は正確に命中する」という説は、撃たれていることに気付いていない(大多数の)マヌケの話と言えます。
もちろん、現代のミサイルが非常に高性能であり、相対的に機銃の価値が低くなっていることも一つの理由です。
レーダー警戒受信機
近年の戦闘機はもれなくレーダー警戒受信機が装備されています。レーダー警戒受信機は、音と計器への表示によって自機に照射されているレーダーの発信源方向を知らせてくれます。よって、レーダーを使用したコンピューターリーディングサイトによる照準をおこなうと相手に気付かれてしまいます。
ほぼ確実に回避機動を取られてしまうため、機銃は以前に比べて若干使いにくい武器となってしまいました。ところがです。相手に気付かれることなくコンピューターリーディングサイトを使うことの出来る戦闘機も存在します。
Su-27の機首部に搭載されたIRSTによる照準は相手に警告を与えません。周囲、特に背後を目視確認して死角をなくすことは現代においても重要です。
空中戦でもっとも重要なことは状況認識(Situation
Awareness)です。
第105回:空対空戦闘3 センサーフュージョンと状況認識
(更新日:2012年4月3日)
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