第67回:戦闘機のお値段 その2

運用基盤とコスト

前項戦闘機のお値段その1ではエンジンやアビオニクスを搭載することによる価格の変動をあげました。
今回はそれ以上に価格の変動に大きくかかわる要素を取り上げたいと思います。

前ページではF-15Eストライクイーグルの価格は3110万ドルと紹介しました。
しかし、F-15Eとほぼ同型の韓国の次期戦闘機であるF-15Kは、45億ドルで40機という契約が結ばれました。
単純に機数で割れば1機1億1250万ドルと、3110万ドルに比べ3倍以上もの大きな開きがあります。

F-15KはF-15Eに比較し電子戦システムやレーダー、エンジンなどにおいてより最新の装備を持つため、いくらか高価になるにしても、前ページであげた「中身の違い」で価格が変動ではF-2でもせいぜい1.5倍の格差であったのですから、3倍は大きすぎです。
さらに、F-15Kが勝利した韓国次期戦闘機選定(FX)では、ロシアのスホーイが40億ドルで40機のSu-35スーパーフランカーを提案していました。巷ではロシアのスホーイは米国製に比べて極めて安価である事が広く知られていますが、それなのに1機あたり1億ドルと、破格に高価になっているF- 15Kと同等のお値段です。何故このような戦闘機の大幅な価格上昇が起るのでしょうか?

当たり前ですが戦闘機は燃料を入れてパイロットが乗れば飛行できるわけではありません。戦闘機を購入する場合、販売元からどれだけのサポートが受けられるかが重要な因子となります。例えば整備や検査を行うための機器の購入、予備の部品の購入、新たな機体にあったインフラの整備、戦闘機を飛行可能にする整備員の育成及び技術の供与や、現場で修復不可能な損傷を受けた場合のメーカー対応等。事例を挙げていけばキリがありません。F-15KやSu-35の例の場合、40〜45億ドルのうちの半分はこうした費用が加算されていると言っても過言では無いでしょう。

韓国はF-16をはじめとした米国製戦闘機を運用しつづけた実績があります。F-15Kであらば新たに必要とする技術やインフラ等は最小限で済むでしょう。それに対しSu-35は規格が全く異なる別の国の戦闘機であり、既存のインフラや培った技術が殆ど使えず、一から再構築しなくてはなりません。
安いはずのSu-35が異様なほど高価になってしまうのにはこうした理由があり、よく言われる「安いフランカーを導入―」というフレーズは、確かにソビエト・ロシア機を長年運用していた国にとってみれば同じロシア製のフランカーを導入するには大きな価格面でのメリットがあるでしょう。しかし、西側機を運用していた国にとっては新たなインフラを構築しなくてはならないという大きな障害が立ちはだかります。
逆に今現在Su-27を運用している国が、新たにSu-35の購入を希望するならば韓国FXで提示された価格の恐らくは半分以下で取り引きを行う事が出来るでしょう。

インフラや技術面は機体そのものに匹敵、場合によってはそれ以上の投資を必要とします。B-2などはその最もたる存在であり、飛行機のお話23回King of hangar B-2Spiritでも書きましたが、機体そのものは5億ドルであっても、極めて特殊な専用のハンガーを必要とし過剰とも言えるほどの整備を行わなければ、そのステルス性を維持する事はできません。こうしたインフラ整備費や運用費を含むと13億ドルにも大きく膨らんでしまうのです。
新たなインフラ整備をかけることが予算的に不可能な国ではMiG-21とMiG-29を運用している国のMiG-29の後継戦闘機がMiG-21の近代化改修機であったり、F-16Aの後継がF-16Cであるような奇妙な事例が発生しています。

また、スウェーデンのグリペンなどはカタログスペック的には他国の戦闘機に比べるとさほど良いものではありませんが、維持費を極限にまで低減させることによって世界最高のコストパフォーマンスを実現し、世界市場で同等に渡り合っている面白い戦闘機であると言えます。


上グラフはJAS39 Griffon's Wingに掲載しているものですが、Fly Away Costは機体が飛行可能状態での価格、Initial Packageは機体を維持するために必要な設備等の価格、Operating&Support Costは機体を運用してくための価格です。機体そのものの値段は大差がありませんが、運用に関わる費用は他の機に数分の一と非常に低い水準にあると言うことが分かります。

しかし、他の国の戦闘機を運用すると莫大な初期費用が掛かることを承知で購入する国があることも事実です。極端な例ではインドがあげられます。同国はイン ド国産からロシアのミグやスホーイ、フランスのミラージュやイギリスのハリアー等多くの国の戦闘機を運用しているにも関わらず、さらに米国からF/A- 18を購入を計画しています。むろんどの戦闘機も部品の共通性など一切ありません。相当の無駄金が投じられている事でしょう。
無駄なコストが掛かることを承知に、あえて多くの国から戦闘機を輸入する国も決して少なくなく、ブラジル、マレーシア、インドネシア、台湾、パキスタン、エジプトなども幾つかの国の戦闘機を装備しています。
軍事機密の塊である戦闘機は、お金さえあれば誰でも売ってくれるような性格の商品ではありません。国家間の外交関係の摩擦により輸出禁止措置が発動された 場合、戦闘機生産元の企業から派遣されたサポート団が全て引き上げてしまえば、最悪の場合全機が部品の共食い状態になってしまう可能性も十分ありえます。 複数の国から輸入すればこうしたリスクをいくらか回避することが出来ます。台湾のような明日戦争が勃発しても不思議ではないような国にとってはリスク分散 の上での重要な投資と言えます。


以上、運用面での投資をメインに書き殴ってみましたが、戦闘機のお値段の変動にはこのほかにも様々な要因が含まれます。
例えば量産効果。軍用機メーカーは減価償却を行いながら販売しますから、同じ機体であっても後期に生産されたものほど安く調達する事が出来ます。
戦闘機は受注生産ですので、相場はあっても定価はありません。
一応は2回を持って戦闘機のお値段を終了いたしますが、気が向けばまた続きを書く事も有るかもしれません。

最後に関連の話題として、F-4EJ改の後継機で揺れる航空自衛隊の戦闘機配備計画ですが、2004年頃まではF-2戦闘機が最有力候補であると思われま した。しかし、同年夏ごろ、「高価で低性能」とまで新聞に叩かれたコストパフォーマンスが低いと烙印を押されたF-2戦闘機の減数によりその可能性は著し く低下してしまいました。低性能か高性能かの議論は置いておくとしても、既にインフラが整っているF-2に比べ、下手に他国の戦闘機を運用すると仮定した 場合、F-2以上のお値段になりかねません。

(更新日:2005年5月11日)
(ちょっとだけ追記:2008年11月)


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