整備性

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【考え抜かれた整備性】

F-4とF-15の整備資格をもった機付け整備員はこう言う。
 「F-4は技術と時間そして強引さを要求され、設計に整備のことは全く考えられていない。
 それに比すとF-15はバカでも整備できる。
同じマクダネルダグラスF-4の血を受け継ぐF-15は列線での整備を最大限に考慮し、高い稼働率を実現するように設計されており、代表的な要素の一つに自己診断装置(BIT)の装備が挙げられる。フレームのゆがみを検知するX線走査など特殊な場合を除けばエンジンやアビオニクス等F-15の搭載機器の不具合を発見するにはBITプログラムを走らせるだけでよい。
エラーが発生している機器が存在する場合は自動的にBITが検出し、コックピット正面パネルの一番右下に位置する警告灯を点灯させる。地上に降りればノーズギア格納部のBIT警告灯を確認することができる。
(F-15Eのノーズギア格納部のBIT)
機付け整備員はエラーを起こしている機器が収容されているエクスターナルアクセスドア(外部点検扉)をオープンし、列線交換ユニット(LRU)と呼ばれる、ある1つの機器が納められたブラックボックスを引き抜き、あらたな正常に動作するLRUを取り付けるだけで良く、異常を発しているLRUはそのままアビオニクスショップ等に送ればよかった。「バカでも出来る―」というイーグルキーパーを侮辱してると受け取られかねない表現はファントムの整備の難しさを表現するため誇張された揶揄であるとしても、Maintainability、Supportability.すなわち整備性及び整備支援性は旧来機に比べれば圧倒的に向上し、列線での機体整備は簡易になった。

なお、F-15の機体には点検用、装備用・燃料口など300近いエクスターナルアクセスドアを持ち、ドアの総面積は53m2と、テニスコートと揶揄される主翼面積(56.5m2)に匹敵する広さである。

上写真をクリックして拡大写真を見ていただきたい。177Rや175Rなど番号が大量にふられているが、これらは全て点検口のナンバーである。左翼側には177L、175Lという番号の点検口がある。

こうした新機軸の採用によりF-15の稼働率は既存機に比べ大幅に向上が見込め、カタログスペック上における1飛行時間あたりの作業量は僅か8マンアワーで、維持費は極限にまで低減されるように設計された。列線整備の範疇外であるがF100ターボファンエンジンを機体から取り外す作業はわずか30分で完了する。
他の戦闘機の実測値を記すとF-4で34マンアワー、F-111で55マンアワーであり、「貧者の戦闘機」F-5ですら16マンアワーとF-15の設計仕様の倍の数値である。8マンアワーという作業量はP-51マスタングと殆ど同程度という極めて低い数値であり、F-15がいかに整備性に考慮が施されたかが知る事が出来る。


【実働下での整備性】

マッハ2級の戦闘機がP-51マスタング並みの整備時間を掛ければ良いという、実用面において理想的とも言える整備性を持って設計されたのは上記の通りである。しかし、カタログスペック通りに行かないのが兵器の常である。
当初設計では1飛行時間あたりの整備は8マンアワーで足りたはずだったが、YF-15の試験運用に於いては倍以上の19マンアワーを必要とした。それだけではない、F-15が実用化され、運用開始からしばらくが経過した1979年の時点では、さらに倍のF-4と同等である35マンアワーを投入しなければならなかった。
F-15に搭載される多くのユニットの中で整備の足を常に引っ張りつづけたのはAN/APG-63レーダーとF100-PW-100エンジンであった。こうした問題は新型戦闘機が就役するとよくありがちな例である。
APG-63は平均故障間隔が15時間という信頼性の低さで頻繁にLRUの交換を必要とし、ついにはLRUの予備が不足するという想定外の事態に陥ってしまった。F100エンジンも同様であり、何度も故障を発し最悪破損し使用不可能になる事も多々有った。
そのため他のイーグルを部品取りに使用し稼働率を保つしかなく、1979年の時点では共食いにより目(レーダー)や心臓(パワープラント)の無い殻だけのイーグルが数多く放置され、稼働率が50%を切り、まともに動くイーグルのほうが少ないという大きな問題を抱えていた。この次期少数がイスラエルに輸出されているが、すぐにでも実戦に投入する必要があるイスラエルではさらに深刻であっただろう。
こうした問題は1980年頃から徐々に改善され、一飛行時間マンアワーも低減(具体的な数値は不明)し、稼働率の問題も1990年頃には平時85%にまで上昇、1991年の湾岸戦争では砂漠の盾作戦から砂漠の嵐作戦の期間を通じF-15C/Dの稼働率は93.7%、F-15Eは95.5%にも達した。
F-15は30年間の間航空優勢を確保する主力戦闘機で有り続けたノウハウの蓄積や、ネックであったエンジンやレーダーも、より最新のものに多くがアップグレードされているため、初期の問題多くは改善済みであると思っても間違いではないだろう。

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■PICTURE

f15jeadb.jpg - USAF