FX選定の基準
FX…すなわち“次期戦闘機”は。性能比較により優れた機種を選定し採用するコンペテンション(売り込み競合)の場です。例え主力戦闘機が数十機程度の小国であってもその規模は1000億円にもなり、日本のような数百の戦闘機を保有する大国ではその単位は兆にまで達し、「一商品」の商戦としてはもっとも動く金額が大きいと言えます。
FXの選定基準は何か? と、考える場合、通常思い浮かぶのは単純に航空機そのものの性能からコストパフォーマンス…といったところでしょう。しかし、それだけではありません。性能差とはかけ離れた外交関係に至るまでさまざまな要因が複雑に絡み合い、選定は非常に困難になります。
その困難な選定において、メーカー側は選定側に対して様々な工作を行うことになります。雑誌やインターネット、メディアによる広報活動などなど…しかしそれだけでしょうか。今回は過去に行われ、人命すら失われた日本のFXの暗部。ロッキード事件に次ぐ汚職事件「ダグラス・グラマン事件」を題材に進めたいと思います(政治家以外の人名は伏せております)。
1957年、第1次防衛力整備計画によりF-86Fに代替する、超音速で飛来するソ連爆撃機を要撃可能な次期超音速級戦闘機計画(FX)は大詰めを迎えており「次期超音速戦闘機調査団」を結成。8月には米国に派遣しF-104C,F-102,F-106,N-156F(F-5A),F11F-1Fを調査し、結果その中からロッキードF-104スターファイターと、グラマンF11F-1Fスーパータイガーが最終選考に残った。
翌58年。最終選考ではF-104が圧倒的有力候補であると思われていたが、岸信介内閣成立後、自衛隊の次期要撃戦闘機はF11F-1Fスーパータイガーに急転、同機がFXに内定した。
しかし、この後内定は白紙に戻されF-104が採用。F-104Jとして配備されることとなる。
時は飛躍し1968年、次のFX計画が発足。選考にはCL1010-2,F-4E,ビゲン,ミラージュF1が候補にあがり、69年にはマクダネルダグラスF-4Eを元にしたF-4EJの採用が決定された。
さらに時は飛躍し1978年12月25日…アメリカの証券取引委員会にて、67年のF-4EJファントムIIの売り込みに際しマクダネルダグラス社が日本政府の高官(岸信介、福田赳夫、松野頼三、中曽根康弘)に対し1万5000ドルを手渡していたことが告発された。翌年1月4日にはE-2Cホークアイの売り込みに際しグラマン社が4人の政治家に対し不正資金を送ったことがさらに発覚。
東京地検はアメリカの証券取引委員会に協力を求めた上、マクダネルダグラス社とグラマン社、両社の日本代理店である日商岩井を中心した捜査を開始した。
しかしその突如、日商岩井の航空機部門の常務であった責任者が自殺するなど捜査は行き詰ってしまった。
2月には、当時の日商岩井の副社長とF-4EJ疑惑に関わったとされる松野頼三元防衛庁長官が証人喚問に召喚され、日商岩井副社長は記憶に無い発言を繰り替えす。が、元防衛庁長官はマクダネルダグラス社から5億円を受け取ったことを認る。
また、F-104を押しのけF-11F-1が急浮上したFX選定に際する当時の首相、岸信介に対しグラマン社が納入1機に対し1000万円、最大30億円のマージンを支払うという関わりを示す証拠品が発見された。しかしながらこの時点で既に時効が成立しており捜査は打ち切られ、金銭享受を認めた元防衛庁長官も刑事裁判には至らず、結局この事件で逮捕され刑事裁判を受けたのは日商岩井の幹部二人のみで、政治家は誰一人として責任を追及されることは無かった。
また3年前の1976年にはグラマンF-14とマクダネルダグラスF-15によるFXにおいてマクダネルダグラスF-15が採用決定されていたため、当然疑惑が向けられることとなったが、捜査の終結に伴いF-14及びF-15は一切捜査されることはなかった。
この事件はたまたま明るみに出ただけであって、世界的に見てFX計画では贈賄が頻繁に行っている可能性が多々あります。例えば隣国、韓国のF-4Dに代替する40機のFXではユーロファイター、Su-35、ラファール、F-15K(F-15E)が競合し、最後にはF-15Kの採用が決定しましたが、選定に不正があったのではないかと疑惑が噴出しています(不正ではありませんがブッシュ大統領自らF-15の売込みにも行ってましたね)。
国防に関わるFX計画…は外交や政治、そして今回のような極端な例も含みつつ複雑に絡み合い、決定が下されます。必ずしもその国の防衛に見合った戦闘機が正当な調査の元に決定が行われるわけではないのです。
余談ではありますが、漫画ゴルゴ13にはFX選定に関する作品が私が知る限り二つ存在します。
1つはエチオピア空軍FX。同国にF-14とF-15の売り込みが行われており、エチオピアの基地で模擬空中戦を行い、優れていたほうを採用する…と発表。マクダネルダグラス側はゴルゴ13に模擬空中戦に入る直前にF-14のレドームを狙撃し破壊、エアインテークに吸い込ませることによりエンジンを不調にするという依頼を行いました。
そのマクダネルダグラスの依頼者曰く
「政権が変わろうと、支配者が変わろうと、F-15がF-14に勝ったという事実がこのマーケットでは必要なんだ!」(40巻陽気な狙撃者より)
そしてもうひとつはドイツ空軍FX。ライバル機種を押す人物を殺害すると共にスキャンダルをつくり出し、その勢力の失脚を狙うため、ある戦闘機の推進人物はゴルゴ13に依頼しました。その中でもこんなセリフがあります。
「総額70億マルクだから、マージン5%とすると、3億5000万マルクの利益だ。商社と釣るんで国防省に働きかける政治家のリベートはそのまた5%として1750万マルク…毎度の事ながらFX購入にともなって血で血を争う構想が繰り広げられるのは当然だろうが!」(29巻スキャンダルの未払い金より)
もちろんこちらは現実とは全く関係の無いフィクションであり、仮想の世界での話ではありますが、なかなかおもしろい設定だと思いました。