ルーイカット
【Rooikat】
ルーイカット(Rooikat)は、旧式化したエラント戦闘偵察車(仏パナールAML戦闘偵察車の南アフリカのライセンス生産版)の後継として南アフリカのサンダック・アストラル(現・アルヴィスOMC)社が開発した、強行偵察および火力支援を目的とした装輪装甲車である。
政情が不安定なアフリカ(現に当時、南アフリカはアパルトヘイトに反対する反政府ゲリラの抵抗に遭っていた)で、いつ何時突発的に発生するか判らない地域紛争に出撃し、他の機甲部隊と素早く相手国領土に侵攻でき、且つ強力な直接火力支援ができる能力が、当時の設計思想として求められた。本車は1989年に76mm砲型の生産型が完成し、南アフリカ陸軍向けに240両が製造され1989年に製造が完了し、90年に南アフリカ陸軍に配備が開始された。
本車の車体は防弾鋼板の溶接の構造で、正面装甲はロシア製の23mm機関砲弾の直撃にも耐えられる造りである。さらに、本車は南アフリカ装甲車の定番である対地雷構造も標準装備されている。仮に本車の車輪が地雷等によって1つ吹き飛ばされたとしても、全速での走行が可能で、2つを失った場合は全速走行ができないながら、走行自体はなおも可能となっている。
主砲のGT4・76mm砲はLIW社が海軍用に開発した物の転用である。開発時にはイタリアのB1センタウロ装輪装甲車の様に105mm砲を搭載するという案もあった。しかし当時の南アフリカの周辺諸国で運用されていた戦車はT-54/55やT-62等の旧式が大多数で、76mm砲でも2000〜3000mであらゆる角度から撃破可能(APFSDS使用)であったことと、より多くの砲弾を搭載できる上に速射性能も毎分6発と高かったことから、76mm砲に軍配が上がった。
ちなみに、本車の携行弾は主砲48発、同軸および車長用キューボラの7.62mm機銃は3,600発である。また、本車両側側面後方には4連装の81mm煙幕弾発射機が装備されている。射撃管制装置はレーザーレンジファインダ、デジタル式の弾道計算機、昼夜用サイト等が組み込まれた戦車並みの高度な物が搭載されている。
エンジンはV型10気筒水冷ディーゼルを使用、最高速度路上120km/h、路外60km/hという高機動で、航続距離は900km(路上であれば1000km)と長大である。これらの優れた性能により、本車の重量28tという8輪装甲車の中では最も重い部類でありながら、広大なアフリカのサバンナを縦横無尽に駆け抜けることが可能になっている。ちなみに、燃費向上のために駆動を8X8、8X4とすることもできる。
車内配置は前部中央に操縦手席、中央部に3名用の砲塔、後部に機関系が配置されている。砲塔内は右前方に砲手、後方に車長、そして左に装填手が搭乗する。
派生型には90年から97年にかけて開発された105mm砲搭載型がある。これはヴィッカーズ・ランド・システム社のL7を元にLIW社が開発したGT7
52口径105mm低反動砲を搭載した物で、NATO標準弾の使用が可能である。105mm砲塔型の76mm砲塔型との相違点としては、105mm砲型は砲を搭載するために車体に対して800kg程度の軽量化が図られている点がある。
さらに、接地圧軽減のためにタイヤを幅広の物に変更し、空気圧調節装置が設置され足周りにも改良が加えられている。
さらに本車は射撃管制装置が一新されており、76mm砲搭載型よりも射撃性能の向上が図られている。
そしてベンチャー開発として105mm型の砲塔L-105がオーストリアのシュタイアー社とスペインのサンタバーバラ社が共同開発した装軌車両に搭載され軽戦車化されたASCOD105も開発されている。また、ルーイカットの車体を利用して35mm連装対空機関砲を搭載した対空自走砲、SAHV-3対空ミサイルを搭載した型(ただし、提案だけで実用化はされなかった)等もある。さらに南アフリカ陸軍が保有するローイカット装甲車のアップグレード用主兵装として、LIW
社の 120mm 滑腔砲 GT12 と自動装填装置の設置が検討されている。
そして現在、南アフリカ陸軍の縮小化によって不要になった一部の中古ルーイカットをヨルダンが購入しており、戦車駆逐車型のルーイカットTDを開発している。
性能諸元
名称 |
ルーイカット(76mm砲搭載) |
製造 |
サンダック・アストラル社 |
主任務 |
威力偵察 |
全長 |
8.2m |
車体長 |
7.09m |
全幅 |
2.9m |
全高 |
2.8m |
乾燥重量 |
28t |
出力 |
V10液冷ディーゼル 260HP/2400rpm |
速度 |
120km/h(整地) 60km/h(不整地) |
燃料搭載量 |
540L |
路上航続距離 |
1,000km |
主武装 |
76mmライフル砲x1(携行弾数48発) |
副武装 |
7.62mm機関銃x2(携行弾数3,600発) |
乗員 |
4名 |
実戦配備 |
1990年 |
派生型
●ルーイカット(76mm砲搭載)
ルーイカットの基本形。
●ルーイカット(105mm砲搭載)
ヴィッカーズ・ランド・システム社のL7 105mm砲を元にLIW社が開発した105mm低反動砲を搭載した型。
射撃管制装置が一新され、105mm砲を積むために車体に800kgの軽量化が施され、足周りに改良が加えられている。輸出用。
●ルーイカットICV
98年の南アフリカ防衛見本市において展示されたルーイカットを元にした技術実証車両。
砲塔はラーテル20歩兵戦闘車の20mm砲塔に変更され、車両は設計し直され後部にランプ式ハッチがあり、兵員を収容できる。
●ルーイカットTD
南アフリカのMDB社とヨルダンのKADDB社がベンチャー開発した戦車駆逐車。
76mm砲塔が遠隔式20mm砲塔に変更され、操縦手席後方の車体が上方に拡大されている。
そして、砲塔右側には南アフリカ製の中距離対戦車ミサイルIngwe(射程4.000m)の発射筒4基が、左側には昼夜兼用のカラー電子光学センサー・パッケージが取り付けられている。なお、20mm機関砲の発射速度は毎分
200 発、有効射程は2,000m。同軸機銃の方は発射速度が毎分650発、有効射程は1,200m。砲搭は全周旋回式で、-8〜+40度の俯仰が可能である。
●ASCOD105
オーストリアのシュタイアー社とスペインのサンタバーバラ社が共同開発したASCOD歩兵戦闘車の車体にルーイカット105mm砲型のL-105砲塔をそのまま搭載された型。基本的に車体の方は歩兵戦闘車と同じ物で鋼板溶接で構成され小口径弾や破片に対する防御力を備えられており、車体後部には乗降ハッチがそのまま残されている。販売のターゲットは主力戦車の導入が資金的に難しい発展途上国で、オプションとして増加装甲の装着の提案がされている。
配備国
●南アフリカ
ルーイカット(76mm砲搭載) 240輌
●ヨルダン
ルーイカット(76mm砲搭載) 不明
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