ズザナは、スロバキア(当時はチェコ・スロバキア)が開発した世界で数少ない装輪型の自走砲である。ただ、ズザナは完全新開発ではなくチェコスロバキアが70年代末に開発した既存のダナ自走砲が原型となっており外見上では、同一の兵器と見られてもおかしく無い程、そっくりである。実際、ダナとの大きな違いは搭載砲と各部に小さな改良が加えられているだけである。従って、本車の場合『開発』と言うより『改良』と言った方が適切かもしれない。
ズザナの元となったダナ自走砲は東側において優秀な自走砲で、ポーランドなど東側諸国に200輌近く輸出されていた。
ダナについてはダナ/Dana 152mm自走砲項を参照されたい。
1989年12月3日南ヨーロッパの小国マルタで、ソビエト連邦大統領ミハイール・セルゲーイヴィチ・ゴルバチョフとアメリカ合衆国大統領ジョージ・H・W・ブッシュが会談し、それまで世界を取り巻いていた東西2つの勢力の対立が終わり欧州新秩序へ向けての一致協力を謳った。冷戦の終結である。そして世界大戦の恐怖の時代は終わり、1991年7月1日にワルシャワ条約機構は解散。1991年のクーデターによってソビエト連邦は崩壊した。東側の国々では、社会主義からの脱却の時代となった。
その中で元々、プラハの春などで比較的民主主義への意識が高かったチェコスロバキアは早速、それまで実質ワルシャワ条約機構内でのみ使用されていたダナ自走砲の152mm榴弾砲から西側兵器で標準型の155mm砲へ変更した型の開発を要求した。
この決定は、チェコスロバキアが今後NATO(北大西洋条約機構)への加盟やチェコスロバキア製兵器の輸出市場の拡大を視野に入れた物である。
ズザナの最初の試作型の2輌が完成したのは1992年12月である。そして丁度その頃、今まで燻っていたスロバキア独立運動が爆発し、1993年1月1日を以てチェコスロバキアは連邦制を廃止、これによりチェコとスロバキアの2国に無血で分離・独立した。そしてチェコは1999年3月12日、スロバキアは2004年3月21日にNATOに加盟し、さらに2004年5月1日、チェコおよびスロバキア両国はEU(欧州連合)に同時加盟している
ズザナの計画はスロバキア側で続行し、1994年に先行量産型が10輌完成した。
ズザナは車体、砲塔内の構造自体はベースとなったダナとほぼ同一である。だが、細かい点において様々な改良が加えられている。まず、搭載エンジンが更新されダナの345hpから355hpと向上している。さらに自動装填装置にも改良が加えられダナの毎分5発から毎分6発となっている。ちなみに持続射撃を行った場合は30分間に30発を発射可能となっている。そして上部ハッチに備えられた12.7mm対空機銃もダナで装備されていた旧式のDShKから新型のNSVTが当初より標準装備されている。だが、ズザナの砲塔の旋回角はダナの225度から左右60度と狭まっている。これはダナの真横への射撃を不可能にしてしまっている。さらに、ズザナでは各部の改良によって乗員がダナの5名から4名に減っている。
ズザナの搭載砲は新開発の45口径155mm榴弾砲で、ダブルバッフル・タイプのマズルブレーキを装備し、左右に二分された砲搭の間に挟みこむ形で搭載されている。射程はベースブリード弾(延伸弾の一種)使用時で39.6kmとダナのベースブリード弾使用時の28.23kmより大幅に性能が向上している。ただし、この砲の採用により、搭載弾がダナ152mm榴弾砲の60発から40発に減少している。砲の俯仰角は−3.5〜+70度となっている。弾薬にはダナと同じく榴弾の他に対戦車用にHEAT(成形炸薬弾)が用意されており、ズザナもダナと同じく、ある程度の対戦車能力を保有している。
派生型には、インド陸軍の次期自走砲選定向けに開発されたロシアのT-72M1戦車の車体にズザナの砲塔を積んだズザナT-72M1自走砲、チェコのシェコダ社がプライベートベンチャーで構想中のズザナの車体にスイスのエリコン社製の35mm対空機関砲を搭載した全周旋回式の新型砲塔を搭載したBRAM35mm自走対空機関砲などがある。
ズザナはスロバキア陸軍にズザナ2000の名称で採用され、2001年までに24輌が配備されギリシア陸軍においても採用され、12輌が配備されている。だが、市場での売り込みはされているものの、現状ではスロバキア、ギリシア以外の採用の話は無い。それは、元々限られた状況での運用が念頭に入れられている自走砲故、兵器市場ではそれが弱点になっているとも考えられなくも無い。だが、同じ装輪型自走砲のG6ライノ(南アフリカ)でもオマーンとUAE(アラブ首長国連合)に輸出が行われていることから、ズザナの市場での将来は未知数であると言えるだろう。
●ズザナA1
2001年に開発が公表された、ズザナの45口径155mmカノン榴弾砲を52口径に換装した改良型。射程はベースブリーズ弾使用時に41.5kmが出るとされている。
内部の電子機器も強化され、射撃能力の向上に貢献している。さらに機関系はドイツ製のMAN
D28 76LF ディーゼルに変更がされている。
●BRAM35mm自走対空機関砲
チェコのシェコダ社がプライベートベンチャーで構想が行われているズザナの車体にスイスのエリコン社製の35mm対空機関砲を搭載した全周旋回式の新型砲塔を搭載した型。
ただし、まだ試作車の製作には至っては居らず、スケールモデルの発表のみで、まだ構想の段階を抜け出せてはいない。
●ズザナT-72M1
ズザナの砲塔システムをT-72M1戦車搭載した型で車体後部左側に補助動力装置が増設されている。ちなみに本車では、砲塔の全周旋回が可能となっている。
1997年のインド陸軍次期自走砲選定に参加するために開発されたが、結局インドは各国からの提案には納得しなかったため、インドのズザナT-72M1の採用はなかった。
ちなみに1998年、インド陸軍は再度のインドの既存の戦車の車体を流用した自走砲の提案を求めた結果、唯一実際に要求に応じた南アフリカLIW社のG6ライノ自走砲の砲塔を元に輸出用に製作したT-6砲塔と国産のアージュン主力戦車の改良が加えられた車体を組み合わせたビーム自走砲の採用を決定した。