蒼空の決闘
- Su-30 vs F-15 -

飛行機のお話第26回では前線航空統制官(FAC)の活躍を小説風にしたものを掲載しました。
第60回となる今回は、Su-30MKIとF-15Cによる戦闘機対戦闘機のショートストーリーを載せたいとおもいます。

前線航空統制官同様に、私ぐりが戦闘の流れなどの原案を行い、Flankerさんに小説風にしてもらいました。よって著者は彼であり、私はアドバイスを行っただけに過ぎません。

なお、以下に始まる「蒼空の決闘」は、レッドフラッグ演習を参考にした模擬戦闘の一部であって実弾は使用していません。兵装の発射は全て模擬であると認識してください。


はしがき:
このお話の舞台は、現実に限りなく近い架空世界です。よって「合衆国」が「合州国」となっていたりします。が空軍力の図式としては現実と基本的に同じ世界です。架空とはいいますが、スホーイがF−15の10分の一の値段だったりスホーイのIRSTがレーダー並みの視界を持った超高性能だったりスホーイがコブラなど曲芸を駆使してドッグファイトで勝ちまくってたりスホーイの電子機器改良型J隊版が飛んでたりすることはないのであしからず^^;
自由合州国ニューモンロー基地は北方に存在していたが、ここ一週間はオータムフェスティバルの様相を呈していた。
各国の戦術機がすし詰めになって、もはや一週間が過ぎようとしている。「グレイフラッグ」と呼ばれる、連合国家群共同で行われる総合航空演習。今日も東側西側ひっくるめ、持ち前のエアフォースパワーをありったけ活かした大演習が繰り返されている。空と兵舎、そしてハンガーのあちこちで面識を深める各国のパイロットはすっかり打ち解け合い、あちらこちらで寝る間も惜しむ航空談義が続いていた。

今日はグレイフラッグ7日目。

第一クールのメニューを全て消化しきり、成果発表が行われる。
午前中は隊舎のグラウンドに参加者全員が集合し、大規模なデブリーフィングという形で反省と、第二第三クールへ向けた方針の決定が行われる。
そして午後は外出許可…とはいかないまでも、半日自由休暇となる。恒例として、夕方より盛大な懇談パーティが催されるのである。従って本日は全面的に飛行訓練を行わない。

…はずであった。





「イユーリ1よりグラズーニャ、目標の位置報告を要求する。」

「グラズーニャよりイユーリ1、対象機、方位060、距離120キロメートル、高度5000メートル、イーグル。敵だ。」

亜音速まで加速された物体はスレンダーで、野ウサギが道路を横切るように空域を潜り抜けていく。
レーダーサイト“グラズーニャ”からの報告を脳裏にインプットして、Su-30MKI戦闘機の前席に腰を沈めているエカチェリーナ“アリス”ハバロフスク中尉はため息をついた。
錦糸玉子のような自慢のロングヘアは飛行中邪魔になるため後ろでまとめてあるが、どうも今日は収まりが良くない。
そしてせっかくの自由時間を、「パイロット牧場の決闘」に割かなければいけないなんて。
今この空域―B35空域―は、演習に参加する全パイロットの注目の的となっていた。

「イユーリ1よりイユーリ2、フォーメーション、スプレッド」

マイクロフォンに声を吹き込むと、隣を併走していた僚機“イユーリ2”がゆるやかに翼をバンクさせ、シルエットを遠のかせていく。
2マイル真横に散開したのだ。


距離55マイル。
レーダー警戒受信機が「小鳥のさえずり」で喚いた。

AN/APG-70レーダーの反応をキャッチしたのだ。そう、このレーダーは― F-15イーグルのもの。
後席員ミハイル“ワット”ヒョードル中尉は、この虚空のどこかしらから一点に、確かな殺意を感じ取っていた。
がしかしレーダー警戒受信機というハイテク風見鶏の指し示す方向には、カモメ一匹映っていない。

「う〜むダメだ、レーダーに反応無し、と。」

頭の禿げ上がった後席員はおまけでもう一言、このポンコツめ、と付け加えた。
索敵の名手も、ハードウェア自体の優劣を埋めることは不可能だった。
そう、電子戦では、自身でも高性能な戦術電子戦システムを有しAEW機の支援を受けたF-15に軍配が上がるのだ。
Su-30のZhuk-PH N011レーダーはF-15の戦闘機であらば200kmもの視程を持つが、F-15自身の持つ戦術電子戦システムのジャミングにより、その視程を大幅に押し戻されていた。


事の発端は昨夜の夕食。
ビーフサラダとバターライスがこんもり乗ったランチプレートを軍事境界線に、エマニュエル“リッキー”サウス少尉とミハイル中尉が張り合っていた。


「要するにな、ザコミグの兄弟ごときにゃF-15様は到底落とせないってことよ。」

「この若造めっ、旧東大陸連邦の航空技術を舐めるなよ。フランカーシリーズは近接戦闘においては完全無敵なんだ!IRSTとR-73のコンビネーションの素晴らしさは、AWACSのママに甘えてるお前さん達でもわかるだろうよ。」

「しがみつくも何も。情報優位は航空戦の基本だぜ?それとな、ここ数日のDACT、実績ではアンタさんとこのザコミグもどきは合州国部隊に落とされまくりの掘られまくりじゃないか。」

ギラギラしすぎて、えげつない男…聡明な女エカチェリーナのサウス少尉に対するファーストインプレッション。

「うっ…それはなぁ、おまえ達が遠距離で奇襲ばかりしているからだっ!距離10マイル以下の近接戦闘にさえ持ち込めればな、祖国の最新鋭戦闘機はたちまちクズ鷲のケツを総締めするのだ!」

下品な表現でそのまま反駁する自分の上司に少なからず、エカチェリーナは嫌悪感を覚えた。

とまぁ、こんなやりとりの続いた後で、血管浮いたミハイル中尉が決闘を申し込む形になった次第。
そして―今のところ東側でナンバーワンの技量を有するエカチェリーナも、ミハイル中尉と航空司令の熱烈なプッシュで果し合いに参加する運びとなった。
「祖国の誇り」という大義名分とともに。
当の本人は全然、乗り気じゃなかったが…
休暇は潰れるし、同数じゃこっちが負けるに決まっている。
それに祖国のプライドがあるなら、まず国民をお腹いっぱい食べさせてよ。


“アリス”の回想する間は数秒間であっただろうか。僅かな沈黙が続いていた。しかし相対距離約45マイルで、その沈黙は破られることとなる。
エカチェリーナが“イユーリ2”に反応の報告を求めようとした、その時。

「レーダーに反応!イーグル!見つけたぞ、ヤガー婆さんの道楽息子!」

「数は?」

「コンタクト90km、速度950Km/h。今ンとこ一機のみだ、つがいの坊やはどこにいるやら。」


スホーイの目を欺き続けたレーダージャミングをバーンスルーし、互いの接近に伴って帳消しになったのだ。つまり、ここからはレーダーをメインに据えた戦闘となる。スホーイは僅かに右にバンクして風を斬り、ひらめくように緩く旋回した。轟音が地表を叩き、周囲の大気をつんざくが、それを聞くものは誰一人としていない。

40マイル。
一秒一秒が一時間単位に思える。がしかし、実際全ての状況はコンマ秒刻みで進んでいた。
相方のジョーク交じりを耳障りに感じながらも、全ての準備は完了している。
R-77「RVV-AE」中射程ミサイルの発射準備は万全だった。 ロックオン。

「レット・イット・ビー」

ポップソングの歌詞ではなく、かつてナザレの町のマリヤがした口調でそう呟いた。
敬虔な東方正教信者である彼女が決まって行う、発射前の「儀式」だった。

「イユーリ1、ファイア!」


大気を裂く音速の刃が発する衝撃も、コクピット内では大した音にならない。真横を掠めた光点が過ぎ去り、消えていく、それだけだ。
がしかし、その刃は瞬時にしてマッハ3、時速にして3600kmの鏃となっていた。シミュレーションモードによるミサイル着弾までのカウントダウンが始まる。
思わぬアウトレンジ攻撃にF-15の一機はおののき、回避機動を取り始める。店員に見つかったこそ泥の逃げるがごとく、巨体がその身を翻した。


「こちらイユーリ2、化けの皮を剥いだ、二機目も確認!」

「いいぞイユーリ2、こっちも見えてる。」

彼らは相互に接近していたため、反応としては一つだった。
回避機動で距離を取ったことにより、二人羽織は虚しく破局となったのである。
距離35マイルでイユーリ2もR-77を発射した。
その刹那、イユーリ2にけたたましい「カラスのさえずり」で警報が鳴り響いた。ロックオン警報。先手のアドバンテージを捨て、R-77の中間誘導を断念。回避機動に映らざるを得なかった。


「FOX3」
聞き覚えのある、低い声。
ロミオ1は、先に攻撃された焦燥感を冷徹に処理し、そして冷静な判断をした。
僚機ロミオ2が回避機動を取る中直進を続け、案の定引っかかったスホーイに向けてAIM-120AMRAAMを発射、FOX3コールを宣言したのだ。
AIM-120Bが、独立した刃となってイユーリ2に迫る。
そして回避の間も“ワット”は、しっかりとレーダーを見つめていた。

敵機発見、攻撃そして反撃の一連は、わずか15秒のうちに成されていた。


「クソッ、ロックが外れた。」

F-15による回避機動により、こちらの放ったR-77は回避判定。
おまけにレーダーロスト。
だがここで一つの、ささやかな恩恵があった。
東側機の目玉ことIRSTが、F-15のいる方位をしっかり探知していたのだ。

「こちらイユーリ2、健闘虚しくレーダーサイトより被弾判定が出た。RTB。」

しかし、イユーリ2にも成果はあった。
相手のF-15も一機、同じく彼を支援するAEW機より撃墜判定をもらっていたのだ。

おあいこじゃ勝ったことにはならないんだぜ―
イユーリ2のパイロットは戦列を離れながら、思いつく限りの罵詈雑言で相手を罵っていた。



距離25マイル。
一対一。
F-15C“ロミオ1”に尻を収めるパイロット、エマニュエル“リッキー”サウス少尉は、唇を一舐めした。“ロミオ2”はすでに撃墜され、リーダーだけが残ったのだ。
操縦桿をゆるやかに押さえて針路を元に戻し、自らの回避機動によりロストしたSu-30を補足するべくレーダーの走査角を広げ、再びレーダーに目を凝らす。が、距離を詰めているにも関わらず、発見できない。

「これじゃ同期の連中に合わせる顔がないぜ。」
サウス大尉は再び唇を舐めると呼吸を腹に収めた。


R-77による先手の回避判定出た直後、スライスバック機動を取る“イユーリ1”の作戦が功を奏していた。
大気速度が急激に落ち、最適の運動速度を確保したフランカーはドリフトのようなターンを描き、敵との対峙線に対しx=0のベクトルを維持しつつ直線飛行していた。ビーム機動を取り、パルスドップラーレーダーを欺いたのである。
相対速度がX軸に対して0―つまり自機の進路に対して横角90度で飛行する―ならば、レーダーは反応を地面と認識してしまう。


そして、距離は10マイルにまで縮まった。
もうレーダーは必要ない。
あとは熱を見分ける目、IRSTが勝利を導いてくれる。
右にブレイクを取ると、前方上空、冷たい青空の中に明らかな反応があった。
エカチェリーナが言うが早いか、ミハイルが言うが早いか。


「タリホー!」

とにかく、F-15はスホーイに補足されたのだ。レーダー走査角を広く取るF-15C“ロミオ1”にはまだ発見されていない。
今だけがチャンス。
これを逃せば、次に課せられるのはぐだぐだのドッグファイトだろう。

「レット・イット…」

いつもどおりの儀式。
だけど待ちきれなくて、さっさとトリガーを押し込む。
短射程と呼ぶにはあまりにも射程が長いR-73「アーチャー」赤外線誘導ミサイルが踊り狂うように飛び出し、持て余したパワーを荒鷲に叩きつける。


迫る弓士の一撃。
本来ならば赤外線誘導のミサイルは敵に警告を発しない。相手方がアイボール、すなわち目視によりそれに気づき急旋回に入った三秒後には、ミサイルは敵を突き刺す挙動を見せ、そのあとはふらふらと落下していったであろう。

「スプラッシュ!イーグル二機目を撃墜確認。」
「見たか!ヤンキーのナンパ野郎、帰ったらウォッカを一個飛行隊分奢らせてやる。」


ロミオ1ことサウス大尉はどこから撃たれたのかと、呆然とするしか無かった。



ベストパイロット賞は私が頂き、ね。
決闘を申し受けた後悔も吹っ飛んだ爽快な笑みで、“アリス”は帰投宣言をした。
数秒後、パイロット達が闘志をぶつけあった虚空は、また静まり返っていた。

[蒼空の決闘 END]





蒼空の決闘はSu-27MightyWing内のイーグルを空から追い落とせ!を原案としており、さらにボーイングにて行われた航空戦シミュレーターが、そのルーツとなっています。

この小説における監修を担当した私ですが、とても苦労したのは、ロシア空軍について分からないことが多すぎて、困ったことです。
たとえば「FOX2」に相当するのは何か?、よく考えたら単位はメートル法じゃん。さらには当初“イユーリ”のコールサインは“オスカー”でしたが、フォネティックコードも使っていいのかどうか…というわけで、相当妥協が入っています。

ある程度リアリティを持たせていますが、また、ある程度フィクションが混じっていることも事実です。

最後に、二度にわたりMASDFのためにショートストーリーを書いていただけいたFlankerさんに感謝の意を表します。

Flankerさんのブログ














おまけ:予告編(あんぞ) 
提供:MASDF・ぐり
著作:ふらり

彼らは一途に、信じていた…。
最強の翼という称号は、フランカーにあることを。
彼らは常に、心に描いていた…。
空を舞う最強の戦闘機、フランカーの勇姿を。

ハリウッドが1000万ドルを投入した今世紀最大の一大航空スペクタクルロマン。

スホーイ・ビリーバーズ

「Su-30は機動性も高くIRSTというアメリカにはない電子装置がある!しかも値段が安いから大量に配備できて物量面でも圧倒できる!」
ひるむことなく主張を続ける彼らの前に今日も立ちはだかるのは…
「旧ソ連のカタログデータなんかあてにはできない。F-15の戦闘機としての優位性は実績が示している!」
既成事実を並べ立てる理屈倒れの米軍機信者ども。
「ドッグファイトにさえ入ればフランカーは負けることはない!」
「日露で協力し、価格も安く電子機器さえ積めば世界最強の戦闘機ができるし、ロシア経済も潤う…元々金持ちの傲慢アメリカに脅された妥協作のF-2なんぞ失敗して当然だ。日本はなぜスホーイを新機種として開発し、グローバル経済に貢献しないのか?」
「アドミラル・グズネツォフは航空機運用能力と重武装を追及した航空巡洋艦だ!米仏の原子力空母などと比較するのは門違いである!」
次々と熱き言葉で畳みかけ、今日も米軍/西側機信者どもと鎬を削る!
次第に一つの米軍信者サイトゲームシティMASDFを要塞化し、意見が固定化して劣勢に陥っていく米軍/西側機信者たち。
大手テレビゲーム、夏や冬の季節(というか厨房。)を味方に加え、次々と同志を増やすスホーイサイド。
彼らが栄光を勝ち取る日は間もない。
次世代の戦闘機ファンを担うのは、間違いなく俺たちだ!
戦え、スホーイ・ビリーバーズ!

今年度末、異例の日米露同時公開!

君(信者)はこの現実に、耐えられるか―

原題:Sukhoi Bereabers
配給:ヘラルド社
監督:マイケル・ムーア
主演女優:広瀬レナ(主演作エースコンバット3)
主演男優:黄色の13(主演作エースコンバット4)



さらにおまけ


フランカー信者の一日

1400 起床
1430 神棚に飾ってあるSu-37(1/72)にお祈り
1445 某BBSに書き込み「F-2調達停止に伴い、今度こそ日本はスホーイを導入するべきだ!」
1500 MASDFの掲示板に書き込み「安くて高性能なSu-30に日本の高性能な電子機器を積めば(省略)
1530 暇なのでエースコンバット4をプレイ「ほれ見ろ、黄色中隊のエースだってフランカー使ってるし、やっぱスホーイ>>>>>>>>>>>アメリカ機じゃないか」
1900 暇なので大戦略をプレイ「安くて性能いいのはスホーイ、某国の金食い虫など妥協の産物。」
2200 某ちゃんねるの軍事板などで暴れまわるも相手にされず。
2215 掲示板のレスを確認「F-15Eだと?わかってない、奴らはわかってない…!」
2230 某オンラインフライトシムをプレイ。しかし負けが多いので大半はロビーのチャットに費やす。
0000 ロビーにて初心者相手に「Su-37はかくかくしかじかの理由で最強(略」と触れ回る。
0100 F-2に中射程AAMを撃たれて敗北し怒りのあまり電源OFF。
0130 再起動しフライトシム公式サイトBBSに書き込みを行う。 「中射程AAMを使う奴はチキン野郎!」
0250 某AWACSファンクラブの団体に怒りのメールを送る。
0330 神棚のスホーイに明日の勝利を祈り寝る。