戦闘機とドッグファイト 2章


「戦闘機とドッグファイト」と題を打っており、目視外距離戦闘については「現代の航空戦・最強戦闘機の条件」において解説されていますので、今回は目視内距離戦闘について解説します。
ここにおける目視内の定義は「短射程ミサイルの射程(数キロ〜数百メートル)以内」と定義します。何故なら非常に優れた索敵能力をもったパイロットでは20Kmもの先の戦闘機を発見できてしまい、もう、これは目視外射程ミサイルのレンジであるからです。

敵戦闘機を目視外距離で発見した。しかし目視外距離で交戦できる兵装を搭載していない(短射程ミサイルのみか、時代は1940年代である場合など)、もしくは目視内距離で発見した…などといった場合、目視内距離での交戦が行われることになります。

目視内距離であっても、基本は変わりません。先に発見したら即座に攻撃位置に入り、ミサイルなり機銃なりで攻撃を加えてしまえばいいのです。相手が気が付いていなければ、ドッグファイトなど起こらず危険度ゼロ。例え2機程度の小編隊でも、1940年代の大編隊であっても一瞬で戦闘が終結します。
やはり大抵がこのパターンで終わりです。目視内距離戦闘=ドッグファイトでは無いのです。

では、散々奇襲攻撃の重要性を説きましたが、お互いに気が付いている場合の目視内戦闘とはどのようになるでしょうか。ここでは機関銃のみで武装した第二次大戦時の戦闘機を例に取ります。


まず、その前に空戦エネルギーについて説明します。高度と速度の和を空戦エネルギーと呼び、高度を稼ぐためには上昇して速度を犠牲にし、速度を稼ぐには降下して高度を犠牲にしなければならず、お互いに両立はしない特性があります。また、旋回を行うことによっても速度は低下し空戦エネルギーは減少します。一度接敵した後に空戦エネルギーを増やす方法は存在しません。なぜなら水平飛行するか、最適な上昇率で上昇しなければならないからであり、このような飛行は空飛ぶ的に過ぎません。



さて、お互いが敵戦闘機の存在に気が付いた、といっても戦争はスポーツではないので同じ速度、同じ高度で、相対してヨーイドン!で、はじまる事はあり得ません。必ず空戦エネルギーに差がついています。この空戦エネルギーに差がついている時点で、既に生死を決する言っても過言ではありません。

空戦エネルギーに優れている側は、敵戦闘機よりも高い高度を維持しつつ接近し、相手に対し急降下し一撃を加えます。そしてそのまま上昇し旋回、再び急降下し一撃を加えます。ウィングマンと連携しつつこのような戦術が取られた場合、エネルギーに劣る側は反撃する術がありません。例え上昇し反撃に移ろうとしても、速度は一気に低下して機は機動性を失い、降下せざるを得なくなる事でしょう。目視内戦闘は速度と高度こそが全てなのです。

もちろん、戦闘機にパワーのあるエンジンを搭載していれば優位に戦える事ができますが、あくまでも空戦エネルギーの消耗が低いだけです。
極端な例を言えば、P-51DとMiG-15の戦闘があり、高度と速度共にP-51Dが優位であった場合、MiG-15に対し一方的に攻撃を仕掛けることが可能です。
これを防ぐにはMiG-15側はP-51Dの存在に早くから気づき、接敵する前に、十分に高度と速度を稼がなくてはなりません。だから、お互いに気が付いていたとしても、相手をより早く発見すると言うことが最重要なのです。


旋回戦闘において連合国戦闘機を凌駕していたと言われる零戦。この零戦は登場初期のころ、ポリカルポフI-15及びI-16を相手に、一方的な戦果を見せました。これは決して零戦の優れた“旋回性能”による結果ではありません。
早期に敵を発見することの出来る技量に優れた優れた乗員、そして相手を上回る戦闘機の圧倒的な速度性能によって成された結果であり、零戦は初期から一撃離脱に徹していたのです。(旋回性能だけで言えばI-15のような複葉機は零戦をはるかに凌駕します)
しかし速度性能において圧倒的に勝っていた零戦は、数年後に更に圧倒的に勝るパワーを持った連合国の戦闘機に、太刀打ちできなくなってしまいました。

そして現在。一部の戦闘機ファンは「零戦はドッグファイトに持ち込めば強かった」と言いますが、結局のところ旋回性などあったところで、強力なエンジンで一撃離脱に徹する相手には全く無用の長物なのです。
かのエースパイロット坂井三郎氏も“左ひねりこみ”など零戦の旋回性を誉めつつも、それが実戦で役にたったためしは無かったと断言しています。坂井三郎氏の著書を読めば戦果の殆どが「First look,First kill」によるものだと言うことが分かります。


話を単純化するためにレシプロ戦闘機を例に取りました。現代の戦闘機はかの時代に比べて比較にならないほどエンジン出力が増大し、また攻撃火器にミサイルという新兵器が登場しましたが、空戦エネルギーを高く持てば優位に戦えるという基本は不変です。目視内戦闘の基本は一撃離脱であり、ドッグファイトではないのです。もし、空戦エネルギーに勝る側があえてドッグファイトに持ち込んだ場合、それは相手側にとって、反撃するチャンスを与えるも同然であり、思う壺なのです。
(1機対1機で考えたほうが分かりやすいでしょうが、1対1はありえないと最初に言ったことを忘れないでください。)


では、空戦エネルギーに劣る場合、どうしたらいいのか?
取るべき道は一つ。「Flight!:逃走」